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1.プロローグ
私には高校生の娘がいる。小夏という名前で、肩につくくらいの茶髪を下ろしっぱなしにしている。妻とよく似た顔をしているから、小夏が笑うたびに昔の妻を思い出して懐かしい気持ちになる。私が妻に一目惚れしたのは小夏と同じ、高校生の時だ。あの頃の妻は本当に可愛かったな……いや、今も可愛いけどね。私はずっと妻一筋だ。
「小夏~? もう行くよ?」
「待って! 待って~待って~」
今はちょうど6時半。私は職場がかなり遠いため、毎朝7時発の電車に乗って出勤する。小夏も隣駅の高校に通っているため、毎日電車通学だ。
「ぱぱ~まだいるよね~!?」
「待ってるから早よし」
パパはずっと玄関でお前を待ってるぞ、5分くらい経ってるけど何してたんだ?
「まま~行ってきま~す!」
――がたたっ、たたたた
「ぱぱ~お待たせ!」
「遅い、何しとったん」
「アホ毛がすごくてぇ……」
小夏の頭には、確かにふよふよ動く数本のアホ毛がある。けど、いつものことじゃないか? 小夏らしいから大丈夫だよ。
「行くよ」
「むぅ」
玄関を開けて外に出ると、太陽が当たって眩しい。早朝にも関わらず、こんなに暑いのはやはり夏だからであろう。
玄関の鍵をかけようと振り返ると、小夏が扉の前に陣取っていて鍵をかけられない。何してるんだ?
「小夏、じゃま」
私が怖い顔をしても、小夏は「いひひ」と嬉しそうである。仕方ないから、小夏の背中と扉の間に腕を通して鍵穴に鍵を差し込む。
――ガチャ
鍵がかかった瞬間に、小夏が一歩踏み出した。「によによ~」という顔が腹立たしい。しかしまあ、妻もこんな感じだった。当時女性経験が無かった私にとって、無邪気で能天気で可愛い妻は日々の潤いだった。一目惚れした上に、本気で好きになってしまった。
「ねぇ、ぱぱ……」
「ん?」
玄関から3メートルほど離れたところから小夏が私を呼んだ。小夏は眩しそうに右手をおでこの上に乗せて、真剣な眼差しをしている。
「太陽が……」
小夏は太陽の光を浴びて言う。
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