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「じゃあさとりんがそんな目に遭ったのは、まだその“謎のヒーロー”が現れてなかったから?」
「綾鷹も無事だったんだろ。保護されたうちのひとりじゃないか?」
この言に、幼稚舎からの縁ゆえ訳知りの紬嬢は、首を横に振る。
「そのとき保護したのは、今はさとりんと一緒にいるあの人だった」
「あの人?」
男子ふたり、訝し気に彼女の顔をのぞいた。
「執事の雪路さんよ!」
ふたりは“どいつだっけ?”と一瞬目を丸くする。
「あー、運転手のひょろっとした男な」
面白くなさそうな顔をして湊君は耳の穴に小指を突っ込んだ。
「雪路さん、ウチのメイドたちにも人気あるのよ。背が高くて髪がサラッサラだし、私にもすっごく優しくしてくれた!」
「綾鷹の付き人なら、友人の君に優しいのは当たり前じゃ…」
「それだけじゃなくて。爽やかなレモンバームの香りするし、笑うと優しい犬みたいな顔だもん。私、ああいう顔大好き!」
続けて紬嬢は里梨様情報を、その積み重ねた友人歴を誇るように話した。
姿を消した幼い令嬢を保護した当時大学生の男は、その功労を機に、家で使われるようになったと。
「たまたま綾鷹を保護したことがきっかけで院長令嬢の付き人になるなんて、ツイてるな」
これにも紬嬢は反論する。
「そうでもないよ。だって雪路さん、当時T大法学部のエリート学生だったもん!」
当時は紬嬢も同じく幼児だったわけだが、その後周囲の噂話を吸収してすくすく育ってきた模様。
「はぁ!?」
「T大?」
「雪路さん、すでに決まっていた大手企業への内定を蹴って、さとりんに忠誠を誓ったのよ。ゆくゆくは綾鷹家の家令としてゼッタイ的な地位に立つのね……かっこいい!」
「里梨…、そいつのこと好きなのかな」
湊君は鼻息荒い紬嬢の説明を話半分で聞いていた。
そんな頃、
「あの、これ綾鷹さんに…」
背後から声がかかる。
「下級生の男の子が綾鷹さんにって…。逃げちゃったけど」
クラスメイトが白い封筒を差し出した。
「うん、渡しとくわね」
受け取ったそばから紬嬢がバリっと開けてみると、
「おい、勝手に開けていいのか?」
そこには──
“あやたか里りさま、おひる休み、うら庭にきてください”
「名前が里以外ひらがなだ」
「綾鷹、またかぁ」
このように里梨様は他クラス・他学年の男子に呼び出されることもしばしば。
「さとりんを避ける子たちよりは好感持てるけどね。じゃ、裏庭行こう!」
「そうだな」
「行くか」
お三方も里梨様の後を追う──。
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