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大人の男が好きなの
里梨様の、学園での昼食はいつも独り。食事をしているところを他人に見られると気が散る、それを理解してくれる友とだけ親交を深める。
彼女の秘かな憩いの場は裏庭のベンチだ。コックの用意した弁当を広げ、木漏れ日のなか、口のサイズに合わせたサンドイッチ、またはおむずびをむしゃむしゃと頬張る。
「里りさま! 来てくれたんですね!」
静寂を破る声が横からかかる。校舎の角を曲がって現れたのは、ぶかぶかの制服を着させられている、ひとつ下の学年の児童だった。
「ぼ、ぼ、ぼく……」
彼は顔を真っ赤にし、少し震えた指を胸元でぎゅっと握った。
「入学式であなたをはじめて見てから、ずっと好きでした!」
少年の決死の告白が放たれると、場に木の葉がハラハラと舞った。
「アイツっ、里梨に告白とか、身の程も知らないで!」
好奇心ゆえの出歯亀三人組、現場に間に合ったようだ。
「若さゆえだな」
校舎の角から花見団子のように頭を出して見張っている。
「入学の時からって、二年前から恋心をつのらせてたのねっ」
「……私は君のことを知らないけど」
里梨様は告白の間に、昼食の入ったバスケットをランチクロスに包んで片づけていた。
「好感を持ってくれてありがとう」
それだけを告げ、すっくと立ち上がり反対方向へ歩み出した。
「で、ではっ、ぼくと恋人になってくれますか!?」
なおも熱烈なアプローチを受け、いったん立ち止まり、里梨様は小さく振り向いたのだが、
「ごめんね。私、オトナの男が好きなの」
歯牙にもかけない、という表情であった。
「ぼ、ぼく、いつかちゃんとおとなの男になりますから!」
「…そんな気長になれない」
言い捨てたら進行方向に向き直し、マスクを着け直しながら裏庭を後にする。
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