大人の男が好きなの

1/1
前へ
/26ページ
次へ

大人の男が好きなの

 里梨様の、学園での昼食はいつも独り。食事をしているところを他人に見られると気が散る、それを理解してくれる友とだけ親交を深める。  彼女の秘かな憩いの場は裏庭のベンチだ。コックの用意した弁当を広げ、木漏れ日のなか、口のサイズに合わせたサンドイッチ、またはおむずびをむしゃむしゃと頬張る。 「里りさま! 来てくれたんですね!」  静寂を破る声が横からかかる。校舎の角を曲がって現れたのは、ぶかぶかの制服を着させられている、ひとつ下の学年の児童だった。 「ぼ、ぼ、ぼく……」  彼は顔を真っ赤にし、少し震えた指を胸元でぎゅっと握った。 「入学式であなたをはじめて見てから、ずっと好きでした!」  少年の決死の告白が放たれると、場に木の葉がハラハラと舞った。 「アイツっ、里梨に告白とか、身の程も知らないで!」  好奇心ゆえの出歯亀三人組、現場に間に合ったようだ。 「若さゆえだな」  校舎の角から花見団子のように頭を出して見張っている。 「入学の時からって、二年前から恋心をつのらせてたのねっ」   「……私は君のことを知らないけど」  里梨様は告白の間に、昼食の入ったバスケットをランチクロスに包んで片づけていた。 「好感を持ってくれてありがとう」  それだけを告げ、すっくと立ち上がり反対方向へ歩み出した。 「で、ではっ、ぼくと恋人になってくれますか!?」  なおも熱烈なアプローチを受け、いったん立ち止まり、里梨様は小さく振り向いたのだが、 「ごめんね。私、オトナの(ヒト)が好きなの」  歯牙にもかけない、という表情であった。 「ぼ、ぼく、いつかちゃんとおとなの男になりますから!」 「…そんな気長になれない」  言い捨てたら進行方向に向き直し、マスクを着け直しながら裏庭を後にする。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加