第13話 第一王子ヴィクトルの過去・前編

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 ダニエラ様は何度かヴィクトル様になりすまして、私とヴィクトル様の中を引っかき回した。時にはジェミアン様を利用してブリジットは生贄だと、《呪われた片翼》だとすり込んでいったんだわ。思っていた以上に悪質だった! 『ヴィクトル、彼女が祖国や家族のことを思い出すことがあるって。もしかしたら国に戻りたいと言い出すかもしれない。そうならないように、繋ぎ止めるんだ。今は名前もまだ呼べないだろう。だからたくさん愛してあげて、会話をできるだけしないようにするんだ。会話したら絆されるだろう?』 『元気がないみたいで、昼間は君に会いたくないって……。彼女、少し傲慢になってきているのかも。君に好かれているからって、侍女たちに八つ当たりをするようになったんだ。《片翼》について理解しているのに、情緒不安定なのかも。しょうがないから暫くは僕がサンドバッグになってあげるよ』 『僕に任せてよ、君は次期国王として忙しいだろう。求愛紋も馴染んで、あとちょっとで名前も呼び合えるのだから、ここは踏ん張りどころじゃないかな?』  ダニエラ様は狡猾で、悪意に満ちた嘘を積み重ねていく。  誤算だったのは、壊れかけていたブリジットが耐えていたことだろう。彼女はブリジットの、王女としての責務を、胆力を侮っていたのだ。  だから強行に出た。私がヴィクトル様と会話を交わすことを回避するために──。
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