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『私はお前を殺しはしない……。お前を殺すのは、お前の手足となった侍女や使用人だ。それをもって彼らの罰としよう』
『え……なぁ、いやよ。そんなのいやああああああ』
ダニエラ様は何か喚いていたが、ヴィクトル様は一度も目を合わさなかった。
『……っ』
『ブリジット……。ああ、魂の輝きがどんどん弱く……』
虫の息だけれど、ブリジットは生きていたのが分かった。ドレスには赤銅色の血がこびりついて斑色に染まっていて、首元の肌は毒で黒く変色し掛かっている。もう長くないのは誰が見ても分かるのに、ヴィクトル様は諦めなかった。
『……ブリジット、愛している。誰よりも、愛しているよ。……君は私を許さなく良い。それでも次は君が幸福であるために、私の全てを掛けて、君を見守ることを……どうか許してくれ』
鈍い音と共にヴィクトル様は自分で自分の角を折って、私の胸に置くことで弱々しかった魂が目映い光を灯す。
その魂は眩い光を放ち空へと還る。ブリジットの肉体は白い砂となって崩れて、一欠片も残らずに消えてしまった。
私の頬を濡らしていたのは、ヴィクトル様の涙だったのね……。
でも……これが本当なら、どうしてルティ様が《片翼殺し》なんて呼ばれるようになったの?
それから見えた記憶は早送りしたかのように刹那の瞬きのとなり、次に広がった光景は──エルフ族の都市で雫と出会った時だった。
一瞬で色褪せていた世界が輝く。
そこで目が覚めた。
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