ベビー・シッター

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ベビー・シッター

…ら。 …おい。空起きろ。 黒田に俺は、叩き起こされた。 「お前の学校用スマホ、さっきから鳴りっぱなしだぞ?」 俺は時計を見ると、深夜を過ぎてた。 夏、リツ、真啓からだ。 …まだ見つからないのか? その中で見慣れないメッセージがあった。 From:hana.imaizumi@mail.com (空?暇?一緒にクラブ行かない?) 名前も書かれていないが、メアドを見て、俺は飛び起きた。 …!! 「何処のクラブ?」 (渋谷の●●) 返事は、すぐに帰って来た。 …マジかよっ!!アイツ何やってんだ?! さっきまでの眠気は、吹っ飛んでしまった。有名なクラブだが、遊び方を知らない華には、誘惑が多い場所でもあって危ない。 「黒田さん…ちょっと出かけてくるっ!!」 世間知らずの、お嬢様な華がまた変なことにでも巻き込まれたりしたら、大変だ。 「お…おい!空っ!!お前…明日も学校あるんだぞ?!」 「ああ…分かってる!!」 俺は、服を着替えて、マンションを慌てて飛び出した。 ♬*.:*¸¸ 俺は、渋谷のクラブ迄タクシーを飛ばした。そこは芸能人御用達のクラブで、何度か行ったことがあったが、20歳以上の入場制限があるとこで、トップDJが出演するイベントが定期的にあるとこだ。 …あいつ、どうやって入ったんだ? そういう俺もだが、VIPで入場するとすぐに華にメッセを送った。 「今、VIP席●●に居るけど、どこ?」 (今…そっち行く♪) 華は、数人のグループでやって来た。 「誰だよこいつら?」 わ~♪華のお友達凄いね~VIP席なんて金持ちじゃん♪なんて話してる。 「ん~ここで会った人達。あたしもさっきここに来たの♪」 「ごめん。俺、華の彼氏…ここで待ち合わせしてたんだけど、遅れちゃって。悪いけどふたりにしてくれないかな?」 俺は、華の肩を抱いて、そいつらに、満面の笑顔を作った。へ~華の彼氏超カッコよくない?一緒に居た男たちは、あからさまに残念な顔をしていた。 …バーカ!どう考えたって、お前らじゃ俺には太刀打ちできねぇよ。 「ごめんね…つき合わせちゃって♪これで好きなもの頼んで?」 俺は数枚の“渋沢さんを”渡した。わ~太っ腹♪と言いつつ、散っていった。 全員が散るのを確認してから、俺は華を隣に座らせた。 「おまえさ…一体ナニ考えてんの?」 「ちょっと家出したの。」 華は悪びれずもせずに言った。 「夏もリツも、真啓も心配してお前のこと探してんのっ!!」 「うん。知ってる…だから、明日はちゃんと、学校行くよ?」 「そーゆーことじゃ無くて!!」 「空が言ったように、ひとりで好きなことしてみようと思ったの。」 「お前馬鹿か?学校に見つかったら、一発停学だぞ?」 「そーゆー空もだけどね。」 あはは...と華は呑気に笑った。 「お前なぁ…。」 …こいつの、のほほんとしたところは、絶対ダディに似たんだな。 「暇だから、来てくれたんだよね♪ありがと。」 …そして、こいつの能天気は、一体なんなんだ? 「あ~馬鹿らしっ!俺帰るわっ。」 俺が立ち上がった時に、ウェルカム・ドリンクのメニューと一緒に、綺麗な色のドリンクをスタッフが持ってきた。 …そう言いつつも、世間知らずな華を、ひとりで置いていくことは出来ねぇよな。 俺はため息をついた。 「わ~♪リンゴ・サワーがお勧めだって聞いたから、頼んでみたの。お腹すいちゃったし、空♪ご馳走するから、何か食べよう?」 華はいつもよりも、はしゃいでた。 「お前さ…カラオケかなんかと間違えてんだろ?ここは飯食うところじゃね~んだぞ?」 そう言いつつ、華は、リンゴ・サワーを一口飲んだ。 「うわぁ♪甘くて美味しい。お酒ってこんなに美味しいんだね。」 「わっ…お前、酒飲んだことね~のに、そんなん飲むなよ!!」 俺は慌てて、ウーロン茶と、華にハンバーガーを頼んで、リンゴ・サワーを取り上げた。 「へぇ~空、ここ良く来るんだね~流石だねぇ。」 「流石だねぇ~…じゃねーよ!!ここだって、数回付き合いで来たことがあるだけだよ。バーカ!!」 大きい声じゃ言えないが、こっそり入れて貰ったことが何度かあった。あとは、知り合いが居れば、ユウヤの時は、顔パスだ。 「やっぱり、空は色々なこと知ってるんだねぇ。」 …こんな状況で、尊敬の眼差しで見られても、ちっとも嬉しくねぇ。 「なぁお前さ…悪い子になりゃいーじゃんって俺が言った言葉を、真に受けたのか?」 「ううん。そーゆー訳じゃ無いけど…。」 「そーゆー訳じゃ無いけど?」 「それもアイディアのひとつだなぁ~と思って。」 「が~っ!!お前単細胞かよっ!」 …やっぱりな。俺も責任の一端があるってことか。 まったく、手がかかるヤツだ。 「わ~♪ハンバーガーだっ!美味しそう~♪」 スタッフが、持ってきたハンバーガーには、大きなセロファン・フリルがついた爪楊枝が刺さってた。華は、今まで見たことが無いほどに、はしゃいでいた。 「お前…人の話聞いて無いだろ?」 「ちゃんと…聞いてるってば!空も半分食べる?美味しそうだよ?!」 華は、おもむろにハンバーガーをナイフで半分に切った。 「春さんが、いっつも言うの、”人はお腹が減ってると苛々するから、そんな時は、とりあえず好きなものを食べなさい”って。さぁどうぞ♪」 ハンバーガーの半分を、華は、俺に皿ごとよこした。 「お前と話してると、調子が狂うんだよ。」 思ったより元気そうで、俺はほっとした。それに心なしか、華はとても生き生きして楽しそうだった。 「ねぇ、後で、クラブのダンスを教えて欲しいんだけど。」 「ええええ~食ったら帰るんじゃね~のかよ!」 ...コイツが、食べてると腹が減ってくる。 結局、俺もハンバーガーを食べた。 「良いよ…空、疲れたら先帰って良いよ?」 俺は、とんだベビーシッターをすることになった。 「お前ひとり、ここに残してく事、出来ねーだろ?!バーカ!」 「ねぇ…なんで二言目には、馬鹿って言うの?」 「I am miffed!!(腹立ってんだよ!)みんなに、心配や迷惑かけて。」 華は一瞬、困った顔をしてみせた…こーゆーところが悪い子にはなれねーって言ってんだよ。全く。 「さぁ!帰るぞ!」 俺は華の肘を掴み立たせようとした。 「じゃぁ…ダンス教えてくれたら、帰る。」 華は、立ち上がりながら、慌ててリンゴ・サワーを一気に飲んだ。 「約束でしょっ?!」 …ほんと調子が狂うな。 「分かったよ!約束だからなっ!」 「うん♪」 華は、とても嬉しそうだった。 …あ~もう。これって真啓の役目じゃね~のか?! 俺は、何度目かのため息をついて、ウーロン茶を飲みほした。 フロアに降りて、数曲踊ると、華がふらふらし始めた。 「おい…お前…大丈夫か?」 「うん…ちょっと、クラクラする。」 …マジかよ。 俺はふらつく華を抱えた。 「さっ…帰るぞ!」 「う…ん。」 俺は、クラブの前から、タクシーを拾った。 「えーっとお前の住所って…。」 華はふらふらしながら、バックから紙を出した。 「運転手さん…ここ…行って下さい。」 運転手は、住所をみると分かりました…と、車を発進させた。 俺が、その紙をパッと取り上げる前に、華はさっさとバッグに仕舞った。 「空?今日は楽しかった♪本当にありがとっ。」 華は、俺に抱き着いた…ので、チキった俺。避ける暇も無かったが、すぐにそのまま動かなくなった。 「おい…華!」 何度か揺すると、突然ムクッっと起き上がったので、焦った。 「空?着いたら起こしてね♪」 そういうと、華は、パタリと寝落ちした。 ♬*.:*¸¸ 俺は、窓の外を観ながら考えていた。 押さえつけられると、反抗したくなる気持ちも物凄くよくわかるからだ。 俺と違って、華は些細な事がしたいだけだったのに、それでも、良い子レッテル貼られてしまい必死で、親の期待に添える様に頑張ってた。 …俺に比べりゃ、超優良、優等生だ。 ただ、そんな事に息苦しさを感じちゃったんだろうな。親の反面教師的な人生を見せ付けられて来たから、余計厳しく育てられたんだろうし、逆に今迄、反発せずに、素直で良い子に育ってきたのが、不思議なくらいだ。 俺は、親父とバチクソやり合った時の事を思い出した。学校やめて、バンドやりたいって言った時には、全力で反対されたし、ボコられた。 けれど、それでも諦められなくて、燻ってる時に、マネージャーの黒田に拾われた。 親にも土下座してくれて、最後には、高校を行く事を条件に、許して貰えた…って言うか、実家を飛び出して、バイトしながら曲作って、学校へ行きながらインディーズでデビューを果たせた。 それに比べりゃ、コイツの人生は、生っちょろいとは思うけど、何か一生懸命足掻いてるのだけは判る。 …それにしても、コイツの顔をみてると、虐めたくなるのは、なんでた? 「お客さん…着きましたよ?」 みると、都内の有名ホテル前だった。 …お前…こんな高いところに泊まりやがって。 運転手に言われて、華を起こした。 「ん…。」 「ほら、起きろ!」 俺は、金を払い、華を抱えるようにしてタクシーを降りた。 「部屋どこだよ?」 「あ…と…。」 華は自分のバックから、カードキーを出した。 ホテルのエレベーターに乗り部屋まであがる。 「う…なんか…ぎも゛ぢ…わるい…。」 歩かせたせいか、華が顔をしかめ始めた。 「おい!馬鹿っこんなとこで、吐かれても困るっ!」 俺は、華を抱き上げると、降りたエレベーターから猛ダッシュで華の部屋を探した。 「う…うう。」 「お前…酒弱いのに、なんで酒飲んでんの?」 部屋を見つけ、慌ててルームキーを差し込み、部屋へと入った。 「初めてお酒飲んだから、弱いのなんて…知らなかった…うえっぷ。」 華の荷物を、ベッドに放り投げて、トイレへと運んだ瞬間に、華は自分で便座を上げて、何度か嘔吐した。俺は慌てて、華の髪が汚れない様に掴んだ。 「うう…気持ち悪い…。」 そう言いつつも全てを出してしまって、少し落ち着いたようだった。 そのすきに俺は、部屋の中の冷蔵庫から、ペットボトルの水を出し、華に渡した。 「これ飲め…飲みたくなくても飲むんだ。」 華は、受け取ると一気にそれを飲んだ。 「なんか…凄く寒いんだけど…。」 ガタガタと震える華に、今度は、備え付けのバスローブを掛けた。 「寒い…。」 そう言いつつ、飲んだ水の半分ほどをまた吐いてしまった。 「空…あり…がと…。でも、ちょっと落ち着いた。」 華は震えながらも、俺にお礼を言った。 「ありがとうじゃねーよ。全く。」 ふらふらと立ち上がった華を、ベットへと連れて行き、掛け布団をはぎ、寝かせた。 「駄目だ…寒い…。」 丸くなって、ガタガタと震えている華。毛布ですっかり包んだ後も、震えていた。俺は着てたジャケットを脱いで、華に掛けると背中を摩り続けた。 「空…ごめんね…。」 華は、何度も繰り返し謝りつつ…気が付けば… あーあ!...いつもの様に寝やがった! 部屋を見渡すと、大きなボストンバッグがあり、制服や教科書、洋服などがきちんと置かれていた。 …悪い子になるって言うやつが、家出して、教科書や制服まで持ってくるかよ? 俺は、呆れすぎて笑ってしまった。 ♬*.:*¸¸ あたしは、眼を覚ますと、一瞬何処に居るのか分からなかった。 …そうだ。悪い子になったんだ。 頭がとても痛かった。 「あれ…昨日って…空も居てくれたよね?」 あたしは、慌ててシャワーを浴びて制服に着替えると、近くのコンビニによって朝ご飯とお弁当を買ってから、学校へと向かった。 屋上に向かい、朝ご飯を食べていると、怠そうな空がやってきた。 「空!」 「お…ま…。」 空は、あたしがいたので、驚いたようだった。 「昨日は、ごめんね。あ!タクシー代とか、クラブの席代とか色々払わなくっちゃ…。」 あたしは、ごそごそと膨らんだ財布を出した。 「なんだよ、その財布?」 …暫くは現金生活になっちゃうから、有り金全部持ってきたら、凄いことになっちゃった。 「パパ達から貰ってた、クレジット・カード使えないから、現金生活?」 「お前…それ、成金親父の財布みたいになってんじゃねーか。落としたりしたらどーするんだよ?!金なんて要らねーよ!大した金額じゃねーし。」 朝から矢継ぎ早に話す、空の言葉についていけないあたし。 「ええええ~でも、後で集られたりしたら嫌だから。」 あたしは、ツナおにぎりを食べながら言った。 「お前さ~俺がそんなことすると思う?」 「うん♪だから、返す。」 …後で、空のことだから、ネチネチいじられそうで怖いもん。 「要らね~よ。バーカ!!」 「じゃ…メロンパン食べる?」 「要らね…朝飯喰って来た。」 「そう。」 空は、普段よりも無口だった。 授業が始まる少し前、あたしは教室へと向かったけど、すぐに担任に捕まった。 「両親と喧嘩したので今は、祖母の家で暮らしてます。」 あたしは、嘘をついた。それ以上は何も言われなかったし、担任は家に帰ったと思ったのか、親を心配させるな…と注意を受けただけだった。 リツと、真啓が待ってた。 「華っ!」「華ちゃん!!」 「心配させてごめんね…もう大丈夫だから。」 …空は、ふたりにも、夏にも何も言ってないんだ。 あたしは、ほっとした。 授業中、何度かスマホが震えた。 …あ。スマホ見るの忘れた!! パパ、ママ、ダディ、夏から、そして春さんからも。 みんな心配してるメッセージだったけど、春さんだけは、 (コンビニご飯に飽きたら、家にいらっしゃい♪) …ってメールが来てて、笑っちゃった。 それを空がじっと見てたので、あたしはそっとその画面を見せた。 (見て? あたしのおばあちゃん♪) 空は、ファンキーだなって、ふっと笑った。 リツは、色々聞きたがったけど、掻い摘んで事情を話して、あたしは詮索されたくなかったので、ひとり、屋上でお昼ご飯を食べた。 空は、こっそり学校を抜け出して、昼ご飯を外に買いに行ってたらしい。コンビニの袋をぶらぶら持って、やってきて、あたしのとなりで、メロンパンを食べ始めた。 「おい…いつ家に帰るんだ?」 ふたりとも長い間何もしゃべらず、黙々と食べてたけど、空が先に口を開いた。 でも、あたしは、それに答えなかった。 「親にも、みんなにも、言わないで居てくれてありがとう。」 多分、真啓やリツだったら、すぐに見つかってしまってたと思ったから、ダメもとで、空にメッセージを送ってみたのは、正解だった。 「お前…金…あるのか?」 あたしが、素直にお礼を言ったので、なんだか空は居心地が悪そうだった。 「うん♪暫くは、大丈夫。」 「暫くって、どれぐらいだよ。」 「ん~…1ヵ月ぐらい?」 …多分、倹約すれば、2ヶ月ぐらいは大丈夫だと思うけど。あとは、野となれ山となれ…だ。 「おま…それは、流石に長すぎるだろ。」 「やりたいことを、やりたいの。ひとりカラオケや、銭湯とか、ゲーセンとか、友達とご飯食べに行くとか。」 「それって、家出しなくても出来ることじゃね?」 「う~ん。他の家は知らないけど、ウチは煩い。」 「お前さぁ…意固地になってんじゃね?」 「なんで?なんで意固地になっちゃいけないの?」 「お前と親の関係なんて知らんけど、これから先もっと拗らせたり、拘らなきゃいけねーことがあるような気がするんだ。知らんけど。」 「ん~。あたしにはまだ難しいや…とりあえず♪リツと今日はご飯食べて、カラオケ行こうっと♪」 あたしは、リツにメッセージを送った。すぐに返事は来た。 「俺が言うのもなんだけど、期間が長くなればなるほど、家に帰り難くなるぞ?早めに帰っとけ。」 あたしは、それに返事はせずに、屋上を離れた。 ♬*.:*¸¸ 「リツッ!ちょっとなんでみんな居るのっ?!」 学校の帰り、誰が知らせたか、ママが学校前にお迎えに来てた…けど、あたしはこっそり裏門から逃げた。 そしてリツとの待ち合わせ場所へ行くと、リツだけ誘った筈なのに、空、真啓、そして夏まで居た。 「え~だって、みんなで行った方が面白いじゃん?!」 ニヤついてる二人、リツと、空の仕業だ。 「お前のベビー・シッターは、俺だけじゃ無理だってことが、昨日で良く分かったからな。」 空は、真啓と夏の肩をガシッと掴んで揺らした。 「あたしのベビー・シッター?そんなの要らないよ!ところで、誰?!ママにあたしが、学校に来てること知らせたのっ?!」 みんなで、カラオケボックスへの道すがら、歩きながら聞いた。 困ったようにおずおずと、手を挙げた…のは、真啓だった。 「もうぅぅ~!!」 「ごめん。華ちゃん…でも、僕が嘘つくの下手なの知ってるでしょ?」 みんなが、そうだよねっと笑った。 「真啓くんが、裏切りものだったとは、思わなかった~。夏くん辺りなら、ありそうな気がするけど。」 リツが、真啓くんのことをユダって呼ぼうっと♪…と言って笑った。真啓はそんな変なあだ名つけないでよ~と困ってた。 「俺は、華の気持ち判るから、流石にそんなことはしない。」 濡れ衣を着せられた夏は、姉を売ることは流石に弟として出来ない…と真面目な顔で言ったので、みんながまた笑った。こんな些細なことをワイワイと話してる時間がとっても新鮮で楽しかった。 「でも、(かず)さんぐらいには、知らせた方が良いんじゃない?誰にも連絡しないから、Dadと親父は、警察呼ぶとか言ってたんだぞ?」 夏は、あたしがトラブルを起こすと、いつも嬉しそうだったし、今回もきっとそうだ。自分から監視が外れることを楽しんでる。 「う…ん。そのうち電話するけど、今は、良いや。それより真啓?今日のことも、これからのことも、ママやパパ達に話したら、もう一生口きかないからねっ!」 「華ちゃん…。」 真啓は、何か言いたそうだった。 「あ~それは、真啓が可哀そうだよ…とっても心配してたんだから!」 夏が、真啓をかばった。 「ん~じゃあ、今度やったら、”夜遊び”には、誘わない♪」 「え~っ…華ちゃん…それも酷いよ…。」 あたしも良く分かってる、みんなが心配してたこと。だけど、今は少しの自由を楽しみたい。 …ただ、それだけ。 カラオケで2時間程過ごした後、小腹が空いたあたしたちは、ファミレスに入った。もう9時近くだったけど、時間を心配することも無くて楽しかった。 数日ホテルと学校の往復、好きな時に出掛けて、レストランでボッチご飯や、公園で遅くまでリツや夏とジュースを飲みながら話をしたり、ぶらぶらとコンビニへ出かけたりしていた。 学校からホテルへと帰ると、誰に聞いたのかダディが、ホテルの前であたしを静かに待ってた。 「華さん…お迎えに来たよ?」 あたしの短くて初めての家出は、こうして幕を閉じた。 家に戻る間中、ダディは、何も話さなかったので、とても怒っていることが分かったし、無精ひげも生えてたから、とっても心配していたことが分かった。 家に戻ると、パパの前に座らされてる夏が、あたしに謝った。 …やっぱ。黙ってることなんて出来ないよね。 夏はあたしに付き合って、最近は帰りが遅かったからバレたのかも知れないと思った。 「夏さんが、教えてくれなければ、今夜こそ警察に連絡をするところでしたよ?」 ダディもパパも、憔悴してた。 「警察に連絡すれば良かったじゃん?」 そんなこと言われたって平気だった。逆にその方が、学校や周りの人に色々言われるし、家庭内不和の存在を知らしめる、いい機会だし、多分パパにとっては、少々困ることになってたに違いない。 「華っ!」 ママは、あたしよりもパパ達を心配してる様子だった。 「あなたは、どーして僕たちを心配させたり、困らせるようなことをするんですか?」 明るいところでダディの顔をみると、疲れてるのか、寝不足なのかは、分からないけれど、目の下にはクマが出来てて、額を抑えて偏頭痛と戦ってるようだった。 「パパ達が、あたしの話を聞いてくれないからだよ。あんまり煩いこと言うと、高校卒業したら、就職して家出るから!」 私は夏に、黙っててくれてありがとう…とお礼を言った。数日間だったけど、これには本当に感謝してる。 「僕達を脅そうとしても無駄ですよ?あなたは医師になりたかったんじゃ無いんですか?」 「高校出て就職して、働きながら大学行ってる人だって居るでしょう?ママもパパもそうだったでしょ?あたしだってそうする。」 「働く大変さも知らないあなたに、出来る筈が無いでしょう。」 パパは、わざとらしく、大きなため息をついてみせた。 「その”働く大変さ”を学ぶチャンスすら、パパは、くれなかったじゃない!」 …パパが言うことに、全て言い返してやる!! 「明日も、学校あるしもう寝るわ。パパと話たって、拉致明かないし、時間の無駄だもん。」 溜息をついて大きな手で、顔をぬぐうパパをみて、誰にも見られてないと知ると、夏はちょっと意地悪な笑みを浮かべてた。 「今までだって、頭ごなしに言うだけで、人の話も聞いてくれてなかった癖に、もう遅いよ!夏も明日学校でしょ?早く寝なよ?」 いつも、パパに反抗するのは、夏の役目だったけど、今はあたしになったから、夏は楽しくて仕方が無いらしい。 「華!」「華!」「待ちなさい!」 あたしと夏は、さっさとそれぞれの部屋に入ってカギを掛けた。
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