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転校生
ーーー 学校
「華。おはよ♪」
親友のリツが、声を掛けて、あたしの前に座った。
「ねぇ。今度のprototypeのライブ行けそう?」
リツと、あたしが嵌ってるロック・バンド。
ボーカルのユウヤは、日本人離れしたその歌唱力と、ルックスで、人気急上昇中だった。
「もちろん♪行きたい~!チケット代払うから一緒に取ってくれる?」
リツは、インディーズ時代からのコアなファンで、取りにくいチケットも、かなりの確率でゲットしてくれる。
――― ガラガラッ。
「あー突然だが、転校生を紹介する。」
皆、ガタガタと席についた。
担任の後ろから、学生服には不釣り合いな、背の高い男子学生が入ってきた。
茶色のショートヘアのツーブロック。
黒縁の眼鏡を掛けていて、爽やかな優等生の印象を受けた。
「うーん。80点。」
リツが囁くと、男子学生がジロリとこちらを見た。
「やだ 聞こえちゃったっぽいよ。」
あたしは、慌てて目を逸らした。
「古水流 空 君だ。10歳までイギリスに住んでいて、お父さんの仕事の関係でこちらに来たそうだ。」
担任が空の名前を黒板に書いてる間も、
睨むようにこっちを見てた。
担任に、促されて不愛想に挨拶をした。
「宜しく…。」
ポケットに手を突っ込んだまま、だらしなく立っていた。
…なんかちょっと嫌な感じ。
「今泉の隣が空いてるから、あそこに座って。」
「はい。」
…え〜っ。
「今泉は学級委員だから、分からないことがあったら何でも聞け。今泉宜しくな。」
リツが、振り向いてにやにやと笑ってる。
「はい。判りました。」
リツを、睨みながら返事をした。
「それから、一通り休み時間に、校内を案内してやってくれ。」
担任は、あたしにアイツを押し付けた。
「はい。」
…で…デカい。多分、パパよりちょっと低いぐらい?
黒縁の眼鏡は、かなり度がきつそうだった。
ドンとバッグを机に置き、椅子を引いて気怠そうに座った。
…優等生風に見えたけど、なんかちょっと違うかも。
「今泉 華です。宜しくね。」
最初が肝心。
あたしは愛想よく笑顔で挨拶をした。
「ああ…。」
椅子に斜めに座り、怠そうに返事をした。
…やっぱ感じ悪い。
♬*.:*¸¸
1時間目が終わった。次は音楽で移動教室。
あたしは、リツと移動の準備を始めた。
「おい…お前 案内してくれるんだろ?」
アイツが、声を掛けてきた。
「えっ…うん。」
リツは、にやにや笑ってた。
「じゃ…あたし先行ってるね。」
「ちょっと…何言ってんの?音楽室へ行くんでしょう?だったら一緒に行こう…。」
リツは、さっさと教室を出てしまった。
…なによ。
あたしは、空と一緒に並んで歩いた。
「お前…ちっこいな。」
…うるさい。
「古水流くんが、大きなだけでしょう?」
早足で歩いたけど、空は普通についてくる。
背も高いが、足も長い。
…きっとパパが若かったら、こんな感じだったのかも。
そうなの♩あたしは自覚がある
正真正銘のファザコンなの。
空の少し硬そうな髪は、綺麗に整えられていて、彫りが深い顔立ちをしていた。
…もしかしたらクウォーターとか…なのかな?
「それに…お前って言うのやめてくれない?あたしには今泉 華って名前がちゃんとあるんだから。」
両親からも一度だって、呼び捨てで、呼ばれたことなんてないんだから!
「はなったれ華。」
あたしは、前を見てどんどん歩いていく。
「古水流くんって、子供っぽいのね。」
廊下が、長い気がした。
「俺、90点ぐらいだと思ってんだけどなぁ。ちょっとショック。」
…やっぱり 聞こえてたんだ。
「あたしは、何も言ってないわよ。幾ら外見が良くったって、性格が落第点。」
階段をパタパタと降りた。
「顔も性格も落第点な、はなったれ華に言われたくないね。」
…口の減らない奴だな。まったく‼︎
「別に…あなたに言われたって全然平気。」
渡り廊下。
移動教室から帰ってくる生徒達とすれ違った。
―――ゴーッ。
季節が変わったばかりの秋風は、気まぐれに突風となって、校庭からの砂を巻き上げた。
「きゃっ。」
眼にゴミが入って慌てた拍子に、渡り廊下の途中にある階段を、踏み外しそうになった。
…あぶ…ない。
階段が、顔の前に迫ってきた。
――― ガシッ。
空が、あたしの腕を捕まえてくれた。
――― ボフッ。
勢い余って、空の胸に顔を埋める格好になった。
「気を付けないと、低い鼻が余計低くなるぞ。」
空は、あたしをしっかりと抱き止めた。
「古水流くん…さっきからひとこと余計なのよ。」
あたしは、ムッとして空の顔を見上げた。
「…で? いつまで俺に抱き付いてるの?」
通り過ぎていく生徒達が、クスクスと笑った。
…あわわわっ。
顔が、真っ赤になるのを感じた。
慌てて空から離れたけど、向こうから夏が友達と歩いて来ていた。
…見られたかな。
あたしはドキドキしていたが、夏は何も言わないで通り過ぎていった。
「お前さ、助けて貰って”ありがとう“ぐらい言えないの?」
空は、意地悪そうに笑った。
「あ…ありがと。」
…ホント 嫌なヤツ。
「それに、お前なんで埴輪なの?それじゃ風が吹いてもパンツ見えないじゃん。」
空はつまんねーの…と、スカートの下にジャージを履いてる、あたしの背中に向かって言った。
「なんで、あなたにパンツを見せる状況をつくらなくっちゃいけないの?馬鹿じゃない。」
…腹がたつなーもうっ。
「はなったれ華さん…お言葉を返すようですが、馬鹿って言葉は、自分より馬鹿な奴に言う言葉ですよ?」
「あら…そうだと思ったから言ったの。あたしだってそれぐらい知ってる。」
…何なのよこいつ。あったばかりなのに憎まれ口ばっかり。性格は落第点どころか、マイナスじゃない!
「もうすぐ中間なんだろ?お手並み拝見だな。“お前”が馬鹿じゃないことを証明できるじゃん。」
音楽室が、見えてきた。
「もうあたしに話しかけないでくれます?」
「なんで?」
…こいつ馬鹿だ。
「なんでって、あなたのこと好きになれそうに無いから。」
音楽室が見えてきた。
「心配すんな。俺だってお前みたいな優等生ぶってる女なんて大嫌いだから。ブース!」
音楽室の鍵を先生が丁度開けたらしい。
クラスメートがドアに吸い込まれていく。
あたしは空の言葉を無視して、さっさと教室へ入った。
リツを見つけると、隣の席にボンッと腰かけた。
「ちょっと…リツのお陰で、アイツに色々言われちゃったっんだから!」
空はあたし達から、離れた場所に座った。
リツと目があったらしい、空はにっこりと笑って前を向いた。
…なんなんだ。あいつ。
「笑うと結構カッコ良いね。古水流くんって。」
「あたし嫌だ…リツが学校案内してあげてよ。あいつ性格めちゃくちゃ悪い。」
空があたしの方をちらりと向いたので、無視を決め込んだ。
「別に良いけど♪」
リツは、嬉しそうな顔をした。
…あいつと関わりたくない。
「じゃぁお願いね。」
リツは約束通り昼休みを使って、空に学校内を案内していた。
「古水流くん…フツーに良い人じゃん。丁寧だし、カッコいいし。華のいうような、嫌なやつじゃ無かったよ。」
空が、やってきて席に着いた。
「岩田さん。さっきはどうもありがとう。」
きらきらとした微笑みを浮かべて、リツにお礼を言った。
「ううん。良いよ。岩田さんじゃ、よそよそしいから、リツって呼んで。」
「ありがとう…リツ。」
うん。いつでも言ってね…と、リツが笑った。
…なんなのよ?この2重人格者。
「そうだ。あたしね、ネコ拾ったの。」
携帯で、撮った写真をリツに見せた。
「わー。綺麗なネコね。名前は何て言うの?」
いつもカメラ目線で、写真を撮らせてくれるので、あたしのスマホは、あっと言う間にトーフの写真で溢れた。
「トーフくん♩だよ。」
いつもあたしと、一緒にベッドで寝ていた。
「へぇ~お豆腐みたいに真っ白だし、本当に綺麗なネコちゃんだね。」
「ぶっ…なにその単純な名前。」
あたしは、あいつの言葉を無視した。
「白いからトーフ?短絡的な名前だね。」
あら可愛いじゃない…と、リツがフォローしてくれた。
…ゼッタイ。しゃべらない。
先生が教室に入ってきたので、あたしは慌てて机から教科書をだした。
♬*.:*¸¸
珍しく一家団欒。
家族5人で食事をした。
あたしは家族が大好きだ。
ママは美人で優しいし、ふたりのパパも、素敵でカッコいい。
「今日は、学校で何をしたんですか?」
パパは、必ず学校であった出来事を聞いてくる。
「クラスに転校生が来たの。」
「あら…こんな時期に、珍しいわね。」
ママが皆にお給仕をし終えて席に着いた。
「うん。帰国子女だって。」
ママが、席につくのを待って皆が食べ始める。
「へぇ。アメリカかどこか?」
あたしは、何となく覚えてる。
ダディとママは、アメリカで長く暮らしていたことがあるらしい。
「ううん。イギリスだって。お父さんの仕事で10歳まで住んでて、その後は日本とイギリス行ったり来たりだったみたい。」
「あっ。今日、華と抱き合ってたヤツ?どーりで見たことが無いと思ってたんだ。」
夏の爆弾発言。
「それは…心穏やかではありませんね。」
パパがちらりとあたしをみた。
「華ちゃん。ちゃんと説明しなさい。」
ほぼ同時に、ダディも言った。
「ち…違うのよ。階段から落ちそうになったから助けてくれたんだけど、よろめいて抱き合ってるみたいになっちゃったの。」
あたしは、慌てた。
「華は、どじっ子だもんね。」
夏が、みそ汁を食べながら笑った。
…余計なこと言うからでしょ?
夏を、ジロリと睨んだ。
「華ちゃんは可愛いから、僕はてっきり…。」
ダディは、ホッとした顔をした。
「華ちゃん。彼氏が出来たら、ちゃんとお家に連れて来るのよ?」
ママが、微笑んだ。
「いけません!華ちゃんは、まだ高1年ですよ?早すぎます。」
娘だからと、パパ達は心配しすぎるので、ちょっと困る。
「あら…そんなこと無いわ。だけど、お付き合いし始めたら、ちゃんと家に連れてくること。それが約束よ。」
こんな時のママは他の家に比べ、随分と理解があるように思う。
流石は2人も夫がいるだけある。
「大丈夫。心配しないで。あたしは、パパやダディみたいな人が、
理想なの。そんな男子は、学校に一人も居ないから!」
…そうよ。なんでよりによってあんな奴。
「ガクさん?なんでそんな嬉しそうな顔してるの?」
ママが、パパの顔を覗き込んだ。
「大丈夫ですよ。華ちゃんなら、きっと素敵な男性が見つかりますよ。でも、もうちょっと大人になってからの話ですね。トーコさんと、僕だってじっくり愛を育みましたから…。」
ママとダディが、それを聞いて何故かクスクスと笑ってたけど、パパだけは嬉しそうだった。
「あんなヤツ大嫌い。The Shardめ。あたしのこと”はなったれ華“って呼んだのよ?今日あったばかりなのに。」
パパは、声を出して笑った。
「あだ名が超高層ビルなんて…その子は背がとっても高いんですね。男の子なんてそんなものですよ。気にしなくても大丈夫です。」
パパ達は、暫く仕事の話をしていた。
「そうだ。Prototypeのコンサートがあるの。行って良いでしょう?」
…リツに誘われてたんだ。
「良いわよ。」「いけません。」
ママとパパ、が同時に答えた。
「あら良いじゃない。」
こんな時も、パパとママは対照的だ。
「夜遅くなるのは、感心しませんね。」
パパはまた顔をしかめた。
「毎日じゃないんだし、たまにだもの良いじゃない。」
ママは、パパに反論した。
「じゃあ、帰りは僕が、華ちゃんのお迎えに行ってあげるってのはどう?」
ダディが、折衷案を提示した。
ダディはいつも家族の橋渡し役を上手にする。
「ほんと♪」
「そうすれば、きっとリツちゃんのおうちの人も、安心するだろうから。」
ダディはあたしに微笑んだので、うんうんと頷いて賛成した。
「ダディは、いつも華には甘いんだから。」
夏が呆れた。
「華ちゃんは、僕たちのプリンセスだからね。」
ダディは、あたしの頭にキスをした。
「あれ?そういえばトーフが居ない。」
夕食後、あたしの部屋で寝ている筈の、トーフがいない。
「きっと誰かの部屋で寝てるんじゃない?そのうちひょこり顔を出すわよ。先に宿題しちゃいなさい。」
ママは、医学書を読むパパの隣に座って、いちゃいちゃしながら、あたしに言った。
いつもの風景。
あたしは宿題を片付けて、お風呂に入った。
―――― にゃぁ。にゃぁ。
トーフがお風呂の戸を、カリカリとひっかく音が聞こえた。
あらあら♪さっきまで華ちゃんがあなたのこと探していたのに…どこに隠れてたのかしらとママが話しているのが聞こえた。
ふたりのパパとママにキスをして寝室へ行くと、トーフが、ベッドの上で待っていた。
「トーフ。聞いてよ。今日嫌なヤツが転校してきたの。ちょっとカッコいいけど、性格が最悪なの。」
これは、いつものあたしの独り言。
トーフが来てからというもの、今日あったことを話すのが日課になった。
――― にゃん。
話が終わると、布団にいれてと催促。
あたしは、寄り添って一緒に寝た。
――― ♪
カズさんからメールが入った。
カズさんはあたしのおばあちゃんだけど、おばあちゃんと呼ぶと怒る、ハイカラな人。
(華ちゃんPrtotypeのチケット2枚手に入ったわよ♪)
あたしは思わず飛び上がって喜んで、慌ててリツにメッセを送った。
(リツ:まーじーでー?)
返事が秒で返ってきた。
そしてハート・マークが20個ぐらいついてた。
----翌日の朝
学校へ行くとリツが待ってた。
「ほんと?ホントに手に入ったのっ?!」
リツは大興奮。
テレビ露出も少ないし、ライブのチケットは数分でいつも完売。
「うん。あたしのおばあちゃんが、知り合いの伝手でチケット2枚取ってくれたの。しかも関係者席♪」
リツは自分のほっぺたを抓った。
「夢じゃないよね?ほんとにほんと?」
あたしもカズさんに何度も何度もお礼を言った。これからもチケット貰ってあげるからねと言われて、あたしも同じように嬉しすぎて飛び跳ねたもの。
「うん♪」
リツの気持ちは、充分過ぎるほど判った。
「あ…忘れる前に…これありがと。やっぱ凄く良かったぁ。」
Prototypeのインディーズ時代のCDは、プレミアがつくほど貴重だ。結成当時からのファンのリツは全て持っていた。
「あたしこそありがとうだよぉ。関係者席が取れるなんて、華のおばあちゃんって何者?」
人に知られるのをとっても嫌がるけど、ママの実家はお金持ち。
おじいちゃんと、カズさんは豪邸に住んでいる。
「普通のおばあちゃんだよ。今回はラッキーだっただけ…みたい。」
これは…嘘。
この間、カズさんに何気なくPrototypeが好きだと言ったから。
おばあちゃんに、頼むと碌なことが無いとママが言うけど、今回はほんとに感謝だ。
「あんなのの、どこが良いんだよ。」
…リツがトイレに行ったと思ったら、これだ。
空が鼻で笑った。
「ボーカルのユウヤ…の声が好きなの。あの1/fの揺らぎを持つ、ベルベット・ボイスが好きなの。」
あいつの前にも関わらず、ついウットリしちゃった。
「ビジュアル系とかコミックバンド的な、似たようなもんだろ?!」
空は大きな欠伸をした。
「違うわよ。曲は力強かったり、歌詞に励まされたりするけど、ユウヤの声には、憂いや苦悩が含まれる時があるの。」
あたしは、机に肘をついた。
「最近は特に、嬉しそうにしてる”振り”をしているように、聴こえる時があるんだよねぇ。売れてるのに、大変なこともあるのかなぁ。」
空は珍しくちゃかしたりせずに、黙ってあたしを見てた。
♬*.:*¸¸
「はい。じゃぁ有名なこの部分を…今泉…あやっぱり古水流くんに読んで貰おうかしら。読んだ後、自分の言葉で訳してくれる?」
英語の先生が、空を指名した。
「My only love sprung from my only hate! Too early seen unknown, and known too late!」
Poshブリティッシュ・イングリッシュ。教室からおーっと声があがった。
「…えっと…”たった一つの私の恋が、憎い人から生まれるなんて。知らずに逢うのが早すぎて、知ったときにはもう遅い。”…です。」
一部の女子からため息が漏れた。
…態度は全然Poshじゃないのに。
「はい。良くできました。」
…憎いやつから、恋なんて絶対生まれる筈がない。ジュリエットは馬鹿だ。
古水流 空が、転校してきてから約1カ月。あいつのファンクラブが出来ていた。
…信じらんない。あんな性格ブサイク。
体育の授業では、授業をこっそりサボって屋上から眺める2・3年生のお姉さま方達まで出る始末。
「みんな あなたの正体を知らないから、キャーキャー言ってるのよ。そのねじ曲がった性格を知ったら、あの人達どう思うでしょうね?」
あたしは、とびっきりの嫌味を言った。
「別に…どーでも良い。」
空は机に突っ伏して寝ていた。リツが戻ってきた。
「ねぇツアー前にファンレター書かない?どこの席に座ってるか知らせるの。関係者席なら、きっとステージからでも見えるでしょう?」
「うん♪じゃぁ今日学校の帰りに文房具屋さんへ寄ろう。」
…ばっかじゃね。
空が、私の隣の席で鼻で笑った。
「あっ。小鳥遊くんが来てるよ。」
教室の入り口をみると夏がいた。
「悪い。英語の教科書貸して…忘れちゃた。」
あたしは、プリントも一緒に渡した。
「今日はロミオとジュリエットだったの。これも一緒にあげる。答え全部書いてあるから。」
夏は、パパ似でそこそこカッコ良い。双子で、あたしの弟。でも、一緒に住んでて異父双生児だってことは内緒にしてる。
空が起き上り、あたしと夏をチラリと見た。
…あいつ誰?
「ああ…小鳥遊 夏くん。華のいとこだって。」
…ふーん。そういうことか。
「ラッキー♪じゃぁまたな。」
席に戻ると、リツが小さな声で聞いた。
「小鳥遊くんって、かっこいいよねぇ。」
…いつも答えるのに困る。
「そう?いつも一緒に居るから分かんないよ。」
…これが無難な答え…だろうな。
「そういえば、いつも一緒に居る伏見くん、今日は一緒にいなかったね。」
その名前を聞いて、ドキドキした。
伏見 真啓
夏の友達。家にも遊びに来たこともある。
…ちょっと気になる存在。
とても優しくて大人しい印象。音楽室で、一度ピアノを弾いている姿を見てから、それから不思議と気になっていた。
「う…うん。そうだったね。」
あたしは、慌てて返事をした。
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