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コンサート・デート
――― 真啓のママのコンサートの日。
真啓と夕方の駅前で待ち合わせ。
約束の時間10分前に着いたけど、真啓が既に待っていた。
あたしを見つけるとニコニコ笑いながら、控えめに手を振った。
…真啓らしい。
「真啓くん…お待たせ。寒いのに待たせてゴメンね。」
あたしは、厚手のコートですっかり着ぶくれしていた。
帰宅途中の会社員やサラリーマンで駅前はとても込んでいた。
「やっぱりこの時間は電車も混んでるだろうなぁ。」
あたしは人ごみの中を歩くのが苦手だった。
一緒に歩いていた筈の人をすぐに見失ってしまう。
「そうだね。でも帰りはラッシュも終わっていると思うよ。」
真啓は、真っ白な息を吐きながら静かに笑った。
駅の中は、色々な方向へ歩く人が居て、あたしはその波に飲まれ、真啓を見失いそうになった。
「華ちゃんこっちだよ。」
真啓の声が斜め横から聞こえた。しかもあたしは不可逆、器質性の方向音痴ときている。
「あ…そっちか。」
あたしは慌てて真啓の隣に並んだ。
「やっぱりタクシーで行く?」
真啓が心配そうに聞いた。
「ううん。大丈夫。」
駅の改札に向かう程、人混みが激しくなってきた。
あたしは慌てて、真啓のコートの袖を掴んだ。
「真啓くん…ごめんね。掴んでないと見失いそうだから。」
「大丈夫だよ。乗り場はあっちだ。」
人に押されて真啓の袖を離しそうになった時、真啓が冷たい大きな手であたしの手をしっかりと握った。
ぐいぐいと人に押されながら歩き、やっとホームまでたどり着けた。
「次の電車に乗れれば、かなり時間に余裕が出来るから、ジュースを飲んだり、母の控室へ行く時間もあるよ。」
真啓は立ち止まると、あたしの手をそっと離した。
「あ…真啓くん。悪いんだけど、ずっと手を繋いで貰ってても良い?あたし見失っちゃうの得意だから。」
真啓は笑って頷くと、再びその大きな手であたしの手を包み込んだ。
電車が来たが混んでいた。
ぎゅうぎゅうと押しつぶされそうになって、真啓と向き合う形でぴったりとくっついてしまった。
「あ…華ちゃん…ごめんね。」
真啓が慌ててあたしに謝った。でも、体を動かす隙間も無かった。
「こっちこそ…ごめん。」
顔をあげて真啓に答えたけど、思っていた以上に、真啓の顔があたしの顔に近くて、お互いに慌てた。
「ふた駅だから、すぐだよ。」
しっかりとくっついてしまい、真啓の胸から声が響いてくるようだった。
…真啓って細い印象があったけど、結構がっしりしてるんだ。
あたしはふとそんなことを思った。駅について、窮屈な場所から解放されて、ひとつ背伸びをした。
「ここからは歩いて5分程だからね。」
凄く混んでて驚いたねと、真啓が先を歩いてくれた。
「近くに美味しい喫茶店があるんだよ。よくお母様…あ。」
ついダディと一緒に歩くときの様に、真啓の腕に手を絡ませていた。
「へーっ。真啓くんって、ママの事お母様って呼んでるんだ。」
…真啓らしい…な…って。
あたしは真啓から慌てて離れた。
…恥ずかしい。ついいつもの調子で。
自分の顔がみるみる赤くなるのが判った。
「僕は平気だよ…華ちゃんさえ良ければ、気にしないで。」
真啓は、静かに微笑んだ。
「ゴメンね…あたし男の人と一緒に歩くの初めてで…えっと…ダディーかパパとだから…あの…。」
「ほら…あそこがホールだよ。その隣が喫茶店。」
真啓が指さした先には綺麗に光る大きな建物があり、その隣には古めかしい喫茶店があった。
「見た目は…あれだけど、お店で焼いてるチョコチップ・クッキーがとっても美味しいんだよ。」
あたし達の向かい側にあるホールの周辺だけ、明るく温かみのあるライトに照らし出されて、とても綺麗だった。
赤信号であたしと真啓は止まった。
「えっそうなの♪時間あるなら食べに行こうよ。」
信号が青になり歩道を先に渡り始めた、真啓の腕にまたしてもあたしは、腕を絡ませてしまった。
あたしは慌てて離れたけれど、真啓は何も言わなかった。
「うん♪少しあそこで休憩してから行こう。」
あたしは、ついしがみ付かないように、真啓から少し離れて歩いた。
会場は中規模の映画館ぐらいの大きさだった。
「コンサート前で、ママ緊張してないのかな?ご挨拶に行っても大丈夫?」
少し心配にだった。
「うん。華ちゃんにとっても会いたがってたんだ。」
受付係が2人程立っていたが、真啓の顔を見ると、こんばんはと言って通してくれた。
「あ…チケット。」
「大丈夫。関係者席…家族席で、取ってあるから。」
真啓は優しく言って、ホールの中をどんどん進んだ。何度も来ているらしく、奥まった場所にある控室へと入っていった。大きな女優ミラーの前に座る真っ赤なドレスを着たすらりとした女性に真啓は声を掛けた。
「お母様。華ちゃんを連れて来たよ。」
真啓のママは、まるで女優さんのように綺麗だった。
椅子から立ち上がると背がすらりと高くて、ぱっちりとした大きな目は、真啓にそっくりだった。
少し面長な真啓の顔とは違い、シャープで小さな顔は、まるでお人形さんのようだった。
きちんと纏められた髪には、キラキラと光る髪飾りを付けていた。
…そう言えば、モデルさんをしてたって言ってたっけ。
「初めまして。今泉 華と申します。」
あたしが、ぺこりと頭を下げた。
…綺麗な人…ママが心配しても良いレベルね。
「あなたが華さんね。真啓の母です。夏さんと、あなたのお宅によくお邪魔しているそうで…今度、華さんのお母様にも、ご挨拶をしなくっちゃね。」
真啓のママが動くたびに、長いドレスの裾から、さらさらと音がした。
「とっても可愛いガールフレンドね。お父様にも写真を撮って見せてあげましょ♪」
ゴソゴソと、バッグからスマホを取り出した。
「あ…お母様。違います…華ちゃんはお友達で、ガールフレンドではありません。華ちゃんに失礼だよ。」
真啓が、真っ赤な顔をして慌てた。
…あたしの方こそ、真啓の彼女だなんておこがましい。
はい♪ふたりくっついてね…と、真啓のママはあっという間に写真を撮ってしまった。
「お父様も喜ぶと思うわよ~♪」
笑った顔は、ますます華やかで、見惚れてしまうぐらいだった。
「あ…私も真啓くんのママと、真啓君の写真を撮らせて下さい。」
真啓のママが、隣に並ぶと真啓よりも身長が高くて驚いた。
「わたし…小さい頃から身長が大きくてね、変なあだ名を付けられていたの。」
真啓ママは優しい笑顔を浮かべた。あたしは、ふとテーブルの上の写真に眼がいった。
「あ…この写真?真啓のもうひとりのお父様なの。」
真啓のママが小さく見えるぐらい、背が高く優しそうな人だ。
…美男美女カップルだ。
「僕が生まれた翌日に死んでしまったから、僕は顔も覚えていないんだけどね。」
真啓はじっとその写真を見ていた。
「そうなんだ…。」
そろそろ私も忙しくなるから、また終わってからね…と、真啓のママは笑った。
あたしと真啓は控室を出て、ホールへと向かった。
「今の父は、僕の本当の父じゃないんだ。だけど、僕たち兄弟を本当に愛してくれてるんだ。」
考えて見れば、真啓のことを余りあたしは知らない。
これが、もうひとりのお父さんと携帯の写真を見せてもらった。
「わ~♪どちらのパパも、とってもカッコいいね。」
そうでも無いよ…と、言いつつ、真啓は嬉しそうな顔をしていた。
パンフレットを貰って席に付いた。
満席だったが、ひとつだけ関係者席が空いていた。
「あれはね…僕のもうひとりの亡くなったお父さんの席。」
真啓のママがコンサートの度に、席をとるんだと教えてくれた。
「もうひとりのパパ…か。」
あたしにはふたりのお父さんがいる。
やっぱり亡くなった後も、ずっと愛されてるってとっても素敵だ。
真啓のママがステージから出てくると、拍手が沸いた。
真啓の弾き方に似ているけれど、もっと力強くて深くて、優しい音だった。
あたしはクラッシックはあんまり知らないし、聞いたことが無い曲ばかりだった。
―――― こつん。
あたしはいつの間にか寝ていたらしい。
真啓の肩に、思い切り頭を預けて寝ていた。
「華ちゃん…華ちゃん…。」
真啓はあたしをそっと起こそうとしたけれど、ぐっすりと眠ってしまったらしい。
「華ちゃん…終わったよ。」
…あ…れ?
目が覚めると、一瞬自分がどこに居るのか判らなかった。
「華ちゃん…おはよう。」
…どうしよう。完全に寝てた。
「ごめん…また寝ちゃった。いびきかいたりしてなかった?寝顔間抜けだったよね。」
…あー。恥ずかしい。
「とっても静かにすやすや寝てたよ。」
真啓は優しく微笑んだ。
帰りに再び真啓のママの控室へ寄った。
「私は、打ち上げがあるから先に帰っててね。」
真啓のママはステージ用の化粧を落として、ナチュラルメイクになっていた。
…やっぱり…すっごく美人!
「うん。今日は、華ちゃんと夕食を食べて送ってから帰るよ。」
またぜひお家に遊びに来てね…と、真啓のママは笑った。
ふたりでファミレスに入った。
あたしがママに今終わったとメールをすると、もう真啓さんからメール貰ったわよと返事が来た。
「真啓くんは、よくコンサートへ行くの?」
あたしは、紅茶を飲みながら聞いた。
「うーん。最近は無いかなぁ。今日は久しぶりだったよ。」
「わざわざ誘ってくれたのに寝ちゃって、ごめんね。」
家に帰って、コンサートどうだったって聞かれても、後半は寝ちゃってたなんて言えない。
また夏に笑われる。
「ううん。僕は華ちゃんと過ごせて楽しかったよ。」
…真啓に、気を使わせてるのかも。
「あたしね、パパにクラッシックのコンサートに連れて行って貰うんだけど、その時も途中で寝ちゃうの。つまらない訳じゃ無いんだけど、聴いてると安心しちゃうの。」
あたしはチキンドリア、真啓は鮭のムニエルを頼んだ。
「そうなんだね…僕のピアノだけじゃないなんて、ちょっと残念な気もするけど。」
真啓は、いつも優しい目であたしをみる。
「でも、やっぱり真啓くんのピアノが一番好き。ねぇちょっと手を見せて。」
…大きくて長くてしなやかで、きれいな指。
あたしは大きく開いた、真啓の手を自分の顔の前に近づけた。
「あたしの顔が、すっぽり入っちゃうね。」
手を重ねてみると、関節2つ分ほども違う。
「きっと華ちゃんの手が、もともと小さいんだよ。」
真啓は笑った。
「違うわよ…真啓くんの手が大きいんだよ。パパより、手が大きな気がするもん。」
じゃあ今度比べて見ようと真啓が笑った。
頼んでいた料理が来て、ふたりでゆっくりと食べ始める。
「真啓くんの写真の中のお父さん…背がとっても高かったものね。」
背の順だと、空、夏、真啓で、今のところ真啓が一番小さい…と言っても170センチはある。
「僕の父は身長が190センチぐらいあったそうなんだけど、そこまでは欲しくないけど、あと5-10センチぐらい伸びるといいなぁ。」
「周りに背が高い人ばかりになったら、あたし毎回上を向いて話さなくっちゃいけないし、疲れちゃいそう。真啓は、手が大きいからきっともっと背が伸びるんじゃない?」
作りたてのチキンドリアは熱々過ぎて、暫く食べられそうになかった。
「手が大きいから?」
当たり前だけど、真啓は大きな手で、器用にナイフもフォークも使って食べる。
何だかカトラリーが、小さく見えて、おままごと用みたい。
「だって犬とか、動物でも手が大きい子は大きく育つって言うじゃない?」
「そんなこと言われたの、華ちゃんが初めてだよ。」
真啓が声を出して笑った。
「あ…ごめん。あたしまたおかしなこと言った?」
チキンドリアの端を少し崩すと、湯気がほわっと上がった。
「ううん。華ちゃんを見てると、飽きなくて良いよ。」
暫く、カトラリーの音だけが響いた。
「将来は、やっぱりピアニストだよね?」
毎日何時間もピアノを弾いてるって言ってた。それに勉強をして…なんて本当に大変だと思う。
「うーん。ピアニストか医者かなぁ。」
「お父さんが外科のお医者さんだったら、息子もお医者にって思うんじゃない?」
トロトロのチーズが、歯の裏にくっつきそうになってあたしは慌てて水を飲んだ。
「両親は好きにしなさいって言ってるけど、多分、父の本心では、医者になって欲しいと思っているだろうね。」
真啓の義理のパパは外科医だと言っていた。
「両方になれば良いんじゃない?ピアニストとお医者さん。」
真啓は、大きな眼で少し驚いたように、あたしを見た。
「あれ…あたしまた変な事言った?だって迷うぐらいなら、両方すれば良いじゃない。」
あたしは、真面目に言ったつもりだったんだけど、真啓がまた笑った。
「華ちゃんには、かなわないや。」
「あたしは真啓くんのピアノが大好きだから、ピアニストになったらコンサートの度にチケットを買って、コアな真啓ファンになる。」
そうだリツがプロトタイプのインディーズ時代から見てきたように、あたしも真啓がピアニストになるまで見続けたい。
「でも…コンサート来てくれても、すぐ寝ちゃうんでしょ?」
真啓があたしをからかって、笑った。
「うーん。確かに。じゃぁどうせ後半は寝ちゃうから、チケット代を半額にまけてね。」
「あははは…華ちゃんと居ると楽しいよ。華ちゃんだけは、枕と毛布を持参OKにするよ。」
それは思いつかなかったとあたしが言うと、華ちゃんは本当にしそうで怖いよと真啓が笑った。
楽しい時間はあっという間に終わってしまった。あたしは割り勘のつもりでお金を出したけど、真啓は受け取らなかった。
「でも…悪いよ。コンサートのチケット代だって払って無いのに。」
あたしは食い下がった。
「今度また一緒に出掛けてくれる?その時は、華ちゃんが出してよ。」
「また一緒に出掛けてくれるの?」
あたしは素直に喜んだ。
「うん。華ちゃんが嫌じゃ無かったら。」
「うん♪勿論良いよ。映画とか遊園地とか、一緒に図書館へ行った帰りに、普通にご飯とか。」
真啓はお財布を出し、あたしの分まで支払ってくれた。
…それなら良いかも♪
「今度は、夏も連れてうちに遊びに来てよ。」
レストランを出ると、あたしはぶるっと身震いをした。
「夜は、やっぱり寒いね。」
真啓が星がところどころに光る空を見上げて言った。雨が降ったらしく、地面が濡れていた。
「ほんとだね。早く春が来ないかなぁ。」
駅までまたゆっくりとふたりで歩く。
そしてあたしはまたしても、真啓と腕を組んでしまって、慌てて離れた。
「僕は華ちゃんと腕を組めて嬉しいよ。華ちゃんさえ良ければ…。」
冷たいビル風が吹く沿道をふたりで歩いた。
「華ちゃんさえよければ…って、それ真啓くんの口癖だね。」
「そう?言われるまで気が付かなかった。」
真啓は強い風が吹くたびにあたしを庇った。
「なんかさ…真啓くんは、いっつもあたしに合わせてくれて悪い気がするの。」
歩道のところどころ、降った雨が冷えて氷になっていた。何度か滑って転びそうになった結果…結局あたしは真啓の腕に捕まった歩いた。
「そんなことは無いよ。僕も華ちゃんといると楽しいから。」
まだもう少しおしゃべりをしたいから、電車で帰ろうとあたしは真啓と一緒に電車に乗った。
――― 翌朝。
「真啓さんとのデートはどうだった?」
ママが、お味噌汁を皆に配り終えて席につき、パパとダディが見合わせた。
「デートじゃないよ。コンサートに一緒に行っただけ。」
あら…そうなの?とママが言うと、ダディは笑ったけれど、パパは静かに新聞を読んでいた。
「そうだ♪真啓のママと写真撮って来たの。」
あたしは携帯をゴソゴソ取り出して、真啓のママの写真をママに見せた。
「あら~っ♪本当に!目の覚める様な美人ってこんな人の事を言うのかしらねぇ。」
僕にも見せてと、ダディが覗き込んだ。
「うわっ♪本当だ。そこらにいる女優さんより美人だ。」
パパもチラリとその写真を見た。
「やっぱりねぇ。ガクさんが秘密にしておきたいわけよねぇ。こんなきれいな人なんだもの。」
「そんなことはありませんよ。僕はただトーコさんに要らぬ心配を掛けたく無かっただけです。」
パパは、涼しい顔をしていた。
「真啓くんの本当のパパも、もうひとりのパパもどちらも凄くカッコいいんだよ!写真見せて貰ってびっくりしちゃった。」
「あら…そうだったの。」
休日皆で食事をゆっくり食べるのは久しぶりかも知れない。
「旦那さんは結婚して数年後に胃がんで亡くなったそうですよ。その後、今の外科医の旦那さんとご結婚されたそうです。真啓さんと双子の妹さんは、亡くなった旦那さんのお子さんで、一番下の息子さんは外科医の旦那さんのお子さんだそうです。」
パパが、静かに言った。
…真啓の家も結構複雑なのね。
「へぇ~随分、パパは詳しいんだね。」
夏が意味深にパパに言うと、お話をしたことがあったものですからねと眉を顰め、少々不機嫌になった。
「今度、夏と一緒にお家へ遊びにいらっしゃいと言われたの。その時には、お迎えに来てほしいんだけど。」
写真をもう一度眺めてから、携帯をしまった。
「では僕が送りましょう。」「その時は僕が行くよ。」
パパとダディが同時に言った。
「あーあ。僕しーらないっ!」
夏は、そそくさと自室へと逃げてた。
…あ…えっ…どうしよう。
夏が逃げる時には取り合えず、あたしも逃げた方が良いことは経験から良く判っている。
「あたしも…今日はゆっくり勉強しよ…う。ごちそうさま。」
あたしは、慌てて夏の部屋へと逃げ込んだ。
「ちょっと!一人だけ逃げるのずるい。」
あたしが、入って来たのを見て夏が笑った。
「華は、馬鹿だな。あんなこと言っちゃ駄目だろ?Momはああ見えて、かなり嫉妬深いんだから。」
面白いことになりそうだねと夏は笑ったが、あたしが余計なことをしたばっかりに、3人とも、特にママとパパは数日の間、険悪なムードだった。
―――週明けの月曜日。
「おい。真啓のお母さんのコンサートどうだった?」
空が、あたしに聞いた。
「うん…もうね…凄かった。」
…寝ちゃったんだけどね。
「何が凄かったんだよ。ボキャ貧め。」
あたしは真啓のママと撮った写真を見せた。
「凄いでしょう?絶世の美女だった。」
空はあたしからスマホを奪い取ると、まじまじと写真を見た。
「うわっ。ホントだ。」
…空が言うぐらいだから、やっぱりそうだよね。
「でもこの写真のお陰て、家庭内不和なの。」
あたしはため息をついて、空に事情を話した。
「わはははは…すげー判るわ…ふたりの気持ち。今度真啓に連れてって紹介して貰おうっと♪」
「えーっ。真啓のママだよ?」
「美女に年齢は関係ねーだろ?ところで真啓とのデートはどうだった?」
空が、また意味深な笑みを浮かべた。
「えっ。デートなんかじゃ無いよ。」
あたしは慌てて否定した。
「だってふたりで出かけるなんて、思いっきりデートじゃん。」
「うーん。違う気がするんだけど…真啓くんに聞いてみよう。」
リツと空が同時に呆れた。
「華、それ本気で言ってんの?」「お前…筋金入りの天然だな。」
…な…なによ。ふたり一緒に。
「だって…デートって、付き合ってるふたりがするものでしょう?」
リツと空が顔を見合わせて笑った。
「なんで笑うのよっ!良いお友達だよ。真啓くんが気を悪くするよ。」
リツはしっかりとあたしの方に向き直った。
「ねぇ…次の約束とかしたの?」
「あーっと。真啓くんに御馳走になって悪いと思ったんだけど、今度会う時に華ちゃんが出してくれる?って言われたの。」
あたしは机から教科書を出した。
「あーあ。駄目だ。とりま、俺は真啓に激しく同情。」
空は、手を頭の後ろに回し大きく背伸びをした。
「時間かかるね…これは。」
リツが呆れたように首を振った。
…ふーむ。あたし何かおかしいこと言ったかな?
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