可愛い猫

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可愛い猫

―――キキーッ! ママの運転する助手席で、うつらうつらしてた。 「きゃっ」 …ぐえっ。 シートベルトが良い仕事をしたので、突然締め付けられ,変な声が出ちゃったあたし。 「ママ どうしたの?」 目をこすりながら聞いた。 「白い…もの…轢いちゃったかも」 ママは真っ青な顔をして震えていた。 「白いものって…おばけか何か?」 顔の前で、手をだらりと下げて“お化け”のポーズをしてみせた。 「でも…何も音はしなかったの」 恐る恐る車から降りたママ。 あたしもそれに続く。 車のフロントに回ったけど、何もなかった。 「じゃぁ車の下かな?」 よいしょ…と、車の下を覗いた。 「嫌だ…怖いコト言わないでよ」 ママは、車の後ろに回って確認してる。 「ママー!ちょっと来て」 ママが慌ててやってきたので、ひょいとお化けの正体を見せた。 「あら…ネコ」 ほっとした顔をしたママ。 「怪我は?」 真っ白でツヤツヤな毛。 青い目の男の子。 「なさそうだよ。びっくりしちゃったのかなぁ。」 あたしの胸の中でそのネコはじっとして、くったりと身を任せていた。 「綺麗なネコね。」 ママは、頭をそっと撫でた。 「首輪してないから、野良猫かなぁ。」 滑々の艶やかな毛並みは、飼い猫にも見えた。 「ねぇ…ママ?」 青い目のネコは、あたしの顔をじっと見ていた。 「駄目よ。パパ達に聞かないと。それに(はな)さん、動物の面倒見れないじゃない」 あたしは口をとがらせた。 …そうだ…よね。外飼いの子かも知れないし。 自分に言い聞かせた。 もう飛び出してきちゃ駄目よ?…と、道端の街灯の下にネコをそっとおろした。 …ニャー。 可愛い声で鳴くと、闇夜に消えてった。 「殺生しなくて良かったわ」 ママとあたしは車に戻った。 ♬*.:*¸¸ 「パパ…ネコ飼いたい。」 あたしには、ふたりのパパが居る。 ママはふたりを同時に好きになって、ふたりと内縁関係を続けていた。 「(はな)さんが、ちゃんと面倒をみれるのなら僕は良いと思いますよ。」 パパはダイニングで新聞を読んでいた。脳外科医で、いつも帰りが遅くなるけど、とっても優しくて、大好き。 「駄目よ…あなた縁日の金魚。死なせちゃったじゃない。」 ママが夕食の支度をしながら、キッチンから顔を出した。 「だって、(かい)が、ご飯あげすぎたんだもん…ってそれ何年も前の話じゃん!」 (かい)は、あたしの異父二卵性双生児の弟。夏はママこと月性 冬(げっしょう とうこ)と、パパこと小鳥遊 学(たかなし がく)の子。夏はパパに似てとっても背が高い。パパは、ママよりだいぶ歳が上。 「二人で、毎日世話をしなくちゃいけないんだよ?」 ダディが、医学書を読みながらリビングから言った。このダディこと今泉 静(いまいずみ しず)が、あたしのBiologic father(生物学上の実の父親)。 とってもダンディで、スーパーかっこいい麻酔科医だ。一緒に歩いていると、大抵の女性は、パパをじっと見つめる。 あたしたちが生まれる前から、ママとパパ、そしてダディの不思議な関係は続いている。 どうしてうちにはお父さんが2人で、お母さんがひとりなの?と聞くと、ママはいつもあたしに、”|It's complicated.《複雑な事情》”なのだと言う。あたしと(かい)とは、半分血が繋がっている。ママは、同じだけどパパが違う。 「突然そんなことを聞くなんて、華さんは、一体どうしたんですか?」 パパは、目を細めてあたしをみた。 「ママがさっき白い猫を轢きそうになったの。その子とっても綺麗で、人懐っこいネコだったの。」 セーラー服のまま、パパの隣に座った。 …ここは、あたしの指定席。 「綺麗なネコなら、きっと外飼いのネコでしょう。飼い主さんがいますよ。」 パパは、誰に対しても丁寧語で話す。 …可愛かったのに。 あたしは、口を尖らせた。 「もうご飯出来るから、早く制服着替えていらっしゃい。」 ママが、あたしをせかした。 ――― ガチャン。 「ただいまぁ。」 …あ。夏が返ってきた。 夏はパパに似て、背が高くてカッコいいので、学校でもよくモテる。 一緒に宿題をしたり、時々喧嘩はするけど、基本仲良し。 「あっ。さっきの猫っ!」 あたしは、大きな声を出した。 夏が、あの白いネコを抱いてたから。 皆の視線が一斉に夏に注がれた。 「このネコ、うちの玄関前に居たよ。」 大きな夏に抱っこされ、リラックスしているのか白いネコは腕の中で、じっとしている。 「どうやって入ってきたの?オートロックなのに…不思議ねぇ。」 ご飯と、おみそ汁を並べながら、ママがいった。 「本当に毛並みが良くて、きれいなネコだね。」 ダディもリビングから出てきて、ちょっと抱っこさせて…と、夏の腕からネコを抱き上げた。 「もう遅いから、飼い主は、明日探すことにしなさい。」 ダディに、良い子に抱っこされているネコ様。 「じゃぁ…飼い主が、見つかるまで飼っても良い?」 あたしは興奮した。 「仕方が無いでしょう?」 ママが溜息をついた。 「ねぇ。パパ?一緒にネコに必要なものを買いに行こっ!」 あたしは、パパの腕を引っ張った。 車のカギを、パパが掴んだのをママがちらりとみた。 「駄目よ…ご飯食べてからになさい。」 ママがテーブルの上を指差した。 「…だそうです。トーコさんが、そう言っているので、ご飯食べてから、僕と一緒に行きましょう。」 あたしは、慌ててご飯を食べた。 「華さん。ご飯は、ゆっくり、きちんと食べないといけませんよ。」 パパが、あたしを窘めた。 「うん。だけど、早くしないと、お店しまっちゃうでしょ?」 大丈夫ですよ…とパパは、笑った。 「今日は、最低限のものだけ買って、週末に首輪や、おもちゃを僕と見にいきましょう。」 パパは忙しいから、なかなかショッピングへ行けない分、一緒に出掛けた時は、頼めば殆どのものは買ってくれる。 「あら…ガクさん当直明けで大変でしょう?華さん…私と行けば良いわよ。」 「ええええええ〜。だって、ママは、ダメダメ言うから嫌だ。それに早くしなさいって、ゆっくり見れないんだもん。あたしパパかダディとが良い!」 2人のお父さんは、こんな時とっても嬉しそうな顔をする。 「あーあ。ふたりともホントに華には甘いんだからな。」 パパ達の様子を見て、夏とママが呆れた。 ♬*.:*¸¸ 豆腐(とうふ)くん。 あたしが、付けたネコの名前。 「俺が拾ってきたのに、なんで華について回るんだ?男は男同士、仲良くしよう。」 夏が、トーフを抱っこして香りを嗅いだ。あたしと、お風呂に入って綺麗にしてあげた。 白さに磨きがかかり、3割ほどハンサム度がアップした。 「トーフだって、女性と一緒の方が良いに決まってます。」 パパが笑った。 迷いネコの張り紙を近所に張った。 3日経っても、連絡は無かった。 獣医に連れて行ったけど、マイクロチップも入ってないし、正真正銘の野良猫ちゃんだったらしい。 「うちの子になっちゃいなさい。」 …ニャァ。 話しかけると、トーフはいつも返事をする。この小さな獣に、あたしは、もうメロメロだ。 8834f970-816d-4151-9c18-9a5d4085d21e
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