救い

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亮がニューヨークのジョン・F・ケネディ空港に 着くとキャシーが迎えに来ていた。 「早く会いたいから迎えに来ました」 キャシーは人の目線を気にすること無く、亮に抱きついた。 「ありがとうございます」 「手、大丈夫?」 キャシーは両手で亮の左手を優しく包んだ。 「左手だったので助かりました」 「それよりお腹の子は?」 「順調!最近私と話をするのよ」 「話?」 亮は首傾げた。胎児に話しかける話は聞いたことがあるが、 話をするとは聞いたことがなかった。 「早くお姉ちゃんに会いたいんだって」 「パパじゃなくてお姉ちゃん。絢香ですよね」 「ねー、不思議ね」 キャシーは時計を見た。 「ごめんなさい、取締役を待たせてあるの行きましょう」 「わかりました」 亮はみんなと別れキャシーの白いロールスロイス乗って行った。 亮はランドエステイトの会議室に通され、 キャシーが亮の経歴と持ち株数を伝え 取締役の承認して欲しい旨を話した。 その中でただ一人、 反対するジョージ・スキップが居た。 「日本人はすぐに我が国のコピー品を製造して我が者顔で 安物を売る、マナーが悪くどこでもゴミは捨てるし 子供は道端でトイレをするし自己主張が強くて 所構わず大声で話をする。飲食店の店員は態度が悪いし 徴用工問題、慰安婦の賠償金もまだ支払っていない礼儀知らずな国民だ。 国策とやらでアイドルを世界に売り出して 国連で歌を歌ったり、色気だけの女性アイドルの コンサートをアメリカで公演している。 政治も一党独占で汚職もセクハラもやり放題だ。 国民が飢えているにもかかわらず核ミサイル作っている 私は日本人となんか仕事をしたくない」 「なんか部分的に合っている所もあるけど、 勘違いしているんじゃないか?」 亮は呟いた。 「彼は昔からアジア人が嫌いなのよ、だから 中国も北朝鮮も韓国も日本もごちゃ混ぜになっているみたい」 キャシーが亮の耳元で囁いた。 「まぁ、中国人と韓国人と日本人の見極めは 言葉を聞かないと難しいですよ」 「一人の反対ならあなたを取締役として承認できるけど」 「いや、彼か認めるまで待ちますよ」 「でも、あなたの発言権が無くなってしまう」 キャシーは心強い味方が居なくなる様で悲しかった。 「わかりました、取締役就任今回は無かったという事で」 亮は立ち上がり頭を下げた。 「ただ、アジアから目を背けてはビジネスは 成り立ちません。なぜなら世界の人口の 60パーセントがアジア人なので嫌いだからという事で 済まないとご理解ください」 亮が言うと拍手をする者がいた。 「く、クソ!」 「今日の事は次回株主総会で報告いたします」 キャシーが冷たく言った。 「ま、待ってくれ!」 スキップが立ち上がった。 「どうしました?」 「や、いやもう少しアジアの勉強する」 スキップは声を小さく答えた。 「その方が良いかと思います。 ただ世界の貧困国の30パーセントが 南アジアの国々です。そこでは金儲けは難しい、 しかしその国の土地を買い上げ農地にして 農作物の生産やバイオ燃料の生産で 支援の手を差し伸べようと考えています」 亮は自分の考えを述べた。 「バイオ燃料!あれは素晴らしい発明だが利権を取るのは難しい」 スキップは自分の発言に反省をして声を大きくした。 「それは交渉次第で大丈夫です。お任せください」 「任せるたって」 「バイオ燃料の絞りカスは肥料になるので 農業とセットで展開して行けます」 「なるほど…」 亮の話に取締役役達が頷いていた。 「そちらの話は後ほどという事で、皆さんお集まりご苦労様でした」 キャシーが話を遮った。 取締役が解散すると何人かが集まって亮を取り囲んで バイオ燃料の話を聞きに来た。 今まで乾燥地帯の活用法として、太陽光発電所を作る 企業が多かったが、太陽光パネルの砂の除去などの メンテナンス、パネルの寿命など多額の費用が 掛かる等の問題を抱えていた。 電力は常に安定供給していなければならず、 太陽光発電や風力発電など天候に左右される設備は問題視されていた。 亮が今研究している方法はバイオ燃料の搾り取ったカスを 発酵させると80度になる事を利用して発電を行う事だった。 つまり沸点まであと20度の火力と圧力を かけることによって今までの10パーセントの 燃料しか必要ではなく作られたバイオ燃料の 自給自足で発電されれば電力問題が解決される事になるのである。 そこに、体格の良いエバンス・シルバーと言う 取締役が亮に話しかけていた。 「ダン、ジョージとは仲がいいんだ。説得してみるよ」 「ありがとうエバンス」 キャシーが答えた。 「実は私の娘が日本のアニメに夢中で… 最近は私に(おはよう)と日本語で言うんだ」 「あら、私も日本のアニメ好きよ!毎日観ているわ」 キャシーは笑って答えた。 「毎日?」 「ええ、毎日観ても寝る時間が無いくらい作品が有るのよ」 「そんなに有る?」 「ええ、年間200タイトル以上英語の 字幕が入っているのは本の1部よ」 「わわわ、そんな事娘が聞いたら日本に移住すると 言いかねない。兎に角彼と話をしてみるよ」 「お願いします」 亮は深々と頭を下げた。 「さぁ、食事にしましょう、美味しいお店見つけたの」 キャシーが亮を食事に誘った。 「すみません。みんなに連絡を取らなくてはならないので」 「誰?」 「スタジオDのマリアとRRレコードとロイです」 「わかったわ、終わったら連絡くださいな」 そう言った。キャシーの顔が寂しそうなので 亮はどうしていいか分からなかった。 「ごめんなさい、キャシーその代わり今夜ゆっくりと話をしましょう」 「どういう話?あなたがニューヨークに来ると言う話かしら?」 「そ、そこまではまだ。ただ結構大事な話しで」 「あなたが薬学博士で理学療法士で宝石鑑定士で 沢山の会社の取締役をしていてドライアイスプロジェクトの 発案者そして隠し子がいる。他に何を言われても驚かないわ」 「へ、別に悪い事では無いので」 「じゃあ待っているわ。後で」 キャシーは微笑んで手を振った。
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