はじめましてとただいまと

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 -そして10年後-  正美は子育てのため、和樹を引き取ってから自宅でできる仕事をはじめ、その仕事は順調だ。  仕事が一段落ついた頃。表から賑やかな声が聞こえてきて、勢いよく扉の開く音が……。 「かあちゃーん!!だだいま!!」  我が家の元気印が帰ってきた。 「おかえり和樹」  和樹は正美に纏わり付くと、近くのベビーベッドに目線が移った。  「才加ちゃんただいま!お兄ちゃんが帰ってきたよ」  ベビーベッドにはかわいらしい女の子。  半年前に『特別養子縁組』で、新しい家族となった女の子だ。  和樹には正美だけでなく『生みの母』いる事は話していた。  和樹は由奈のことを『写真の母ちゃん』と呼んでいる。  「和樹……帰ってきたらうがいと手洗いでしょ」 「手を洗ったらすぐにおやつよ」 「やったー!今日のおやつ何?」 「ホットケーキよ」 「やったー!!僕黒いのかける!!」  和樹は写真の由奈にただいまを言うと、慌ただしく洗面所で手洗いとうがいを済ませた。  和樹といっしょに出かけ車を停めた悟が、ゆっくりと自宅に入ってきたがいつもの事だ。  「いただきます」  和樹が黒蜜をかけたホットケーキにかぶりついている。和樹は蜂蜜やメイプルシロップより黒蜜をかけたホットケーキが好みだが、これは『和菓子好きだった由奈の血かな?』とは悟の解釈だ。  「ほらっ慌てて食べると喉に詰まるよ」  正美は和樹のコップに牛乳を注ぐ。  今日は悟の付き添いで、和樹はある所に出かけていた。  「そう言えば見学どうだった?」  和樹は目を輝かせてイロイロ話してくれた。 「あのね……メダリストの柳井選手が来ていた!!」  悟に改めて話を聞くと、今日見学に行った『フェンシング教室』に、たまたま教え子だった金メダリストの柳井純也選手が遊びに来ていたそう。  和樹は教室の先生だけでなく、柳井選手にも少し教えてもらい帰りの車内で興奮していたようだ。  「僕おやつ食べたら宿題するね」  和樹が自主的に宿題をするのは稀だ。  不思議がる正美に悟が、柳井選手に『フェンシングの選手は体だけでなく、お勉強も大切だ』と言われ、彼に宿題を真面目にすると約束したそうだ。    
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