はじめましてとただいまと

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 横須賀の郊外にある小さな家。  由奈が親戚に引き取られ住んでいた家。  悟がインターホンを鳴らすと黒の着物を身につけた少し厳しそうな女性が出てきた。 「桐生のおばさん…ご無沙汰しています。」 「こちらは妻の正美です」 「はじめまして…正美です」 「はじめまして…由奈の伯母の明子です」  悟は頭を下げ、正美もつられて頭を下げた。  家に上がり遺影の由奈に手を合わせ、香典を明子に渡す。  明子はせっかくだからと、お茶を出してくれた。  お茶をいただきつつ、部屋は静かで会話もない。  由奈や明子と面識のない正美は、居心地が悪い。 「由奈ちゃんは事故で亡くなったの…」  明子はポツリポツリと話しはじめた。  由奈の母親は悟の父親と別れてから数年後に、新しい恋人と駆け落ち。残された由奈は親戚に引き取られ、この家に住んでいた。  由奈は平穏に暮らしていたが養父母が高齢になり、由奈に迷惑かけたくないと介護施設に入所。  それから由奈はひとり、この家に住んでいた。  ちなみに由奈の母親は駆け落ち相手と上手くいかず、最後は誰にも看取られる事無く亡くなっていたそう。 「由奈ちゃんが就職して安心していたのに…いつの間にか妊娠してて…」  明子はワナワナと震えている。 「由奈ちゃんが相手に妊娠したって告げたら…なんて言われたと思う?」 「『僕には婚約者がいるから結婚出来ないし産むなら認知しない』って言われたそうよ」 「婚約者は良いところのお嬢さんで比べるまでも無いって言われ…婚約者の存在すら知らなかった由奈ちゃん泣いていたわ」  それでも子供を殺せない。とひとりで育てると決めて産んだはいいが、働きながらひとりで育てるのは難しい…。  明子も由奈と子供の事は気にかけていたが、自宅で年の離れた夫の介護をしていたため、由奈を手伝いたくても限界があった。  由奈は周りの勧めで子供を乳児院に預け、母子で暮らすお金を貯めるためいくつも仕事を掛け持ち。  過労でフラフラな時に、階段から足を踏み外して転落。  そのまま帰らぬ人に…。
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