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走馬灯による記憶の再生は現在に至り、彼女に抱かれた胸の中で理解する。
嫁という言葉に舞い上がっていたのは僕だけで、彼女にとって大した意味などなかったのだろう。彼女は生まれた場所に帰りたいのだと言った。ひたすら純粋なその想いには良識など入る余地はなく、そこから生まれたのだからそこに帰る。ただそれだけのことなのだ。
描いたものが彼女に似ていた、というのは僕の認識だ。彼女にとっての因果の認識は違う。
僕が彼女を生み出した。自分は創作されたのだ。と、彼女は本気でそう思っている。
「僕の嫁」がそう思わせてしまった。人生で追い求めてきたものの答えだと、信じさせてしまった。
彼女が生まれた場所はこの家ではない。絵でもなかった。絵は単なる媒体であり、そこから生み出されたものが僕の手と鉛筆を通じて絵に落とし込まれただけのものだ。
確かにその通り。僕の才能が生み出した。
だからそう、創作たる彼女が生まれた故郷は僕の。
ゴトンと金づちが落ちる音。
頭蓋骨の割れ目を探るように髪の間を指が這う。
深く割れた箇所を見つけると、2本、3本と指が食い込んでいく感触。
メキメキと力いっぱい引き裂くような感覚が走った。
彼女は嬉々とした声で、
「ただいまー!」
露わになった僕の脳に向かって叫んでいた。
(了)
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