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「色の濃いタイルだけを踏んで帰れたヤツが勝ちなー!」
「よーい、どん!」
それは遠い遠い日々。まだ僕たちが年端もいかない子供だったころのこと。ランドセルを背負って、Tシャツと半ズボン姿で、商店街を縦横無尽に駆け抜けていた。目に見えるものだけが世界のすべてだった。大人になる日が来ることなんて、未来永劫ないんじゃないかと思っていた。僕たちはずっとランドセルを背負って、小学校に通い続けなきゃいけないのだと。365日が、とても長い長い日々だった頃。僕たちはたしかに友達だった。
「遭難者はおまえと同年代の男性だ」
隊長の声が、昨日から続く大雨の音にかき消され、途切れ途切れにきこえてきた。
『昭良山の山道で、乗用車が単独事故を起こしている。運転していたとみられる男性が、車外に投げ出され、崖の下に転落している』という内容の通報があったのは、いまから一時間ほど前のことだった。
僕たちは現場に急行した。救助工作車のフロントガラスに打ち付ける雨は激しく、ワイパーをフル活動させなければ前が見えないほどであった。
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