呼び鳥の唄

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「……お山に呼ばれるような気がするんだろう」  おずおずと顔を上げて頷くと、婆様はじっと少女を見つめた。その眼差しはどこか痛ましげな色をしていたが、少女はそれをただ、不興を買ったのだと解していた。 「おぬしは年があらたまれば八つになる。それまではとお山へ行くのを禁じておったが、その甲斐もなく、もう決まりのようだ」  婆様はなかば独りごとのように呟いて、少女を手招いた。 「おいで。おぬしに渡すものがある」  婆様から渡されたのは一つの笛だった。幼い両手にもすっぽりとおさまる小さな素焼きの笛は、風雪にさらされた骨のような灰白の色をしていた。 「里で吹いてはならん。これは(もがり)の笛だからの」  言い含めるようにゆっくりと婆様は告げた。明くる日、婆様とお山に登った少女が、婆様に促されるままにそっと息を吹き込めば、笛はポー、とのどかな音を立てた。婆様がほう、と息を吐く。  殯の笛は、鳴らぬ笛なのだと言う。弔いでは亡き人の身内が祈りの息を吹き込むが、それはあくまで形だけの儀式だった。その笛を少女は難なく鳴らした。  そのときかすかな風切り音とともに、大鷲が頭上の枝に止まった。  黄色の嘴に黒い翼、白い風切り羽。鋭い目が少女を見下ろしている。 ――ぬしさま  やはり声にならない少女に応えるように、大鷲はピィー、と長く鳴いた。   「お山の主様を呼んだか。やはり、おぬしは………」  吸い込まれるように大鷲に見入っていた少女が、婆様の言葉の続きを聞くことはなかった。 「呼び鳥」  追憶に心をさまよわせていた娘――呼び鳥を、里人の声がうつつに呼び戻した。 「あとは頼んだでな」  神妙な顔をした里人に、呼び鳥は頷いた。
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