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『何だか楽しくなってきたわね。村の方へも行ってみようかしら』
シンセーヌは一人そう呟くと、滑るように斜面を移動していく。
切り立った岩場でも、小さな水の流れが集まる川の源流でも、軽々とそれを乗り越えてゆく彼女の金色の髪や柔らかそうなシフォン生地のドレスはそよりとも動かない。
瞬く間に麓に辿り着いた彼女の目に入ってきたのは、群れ集う村人の姿。
そこにいる全員の視線が大きな岩の上に立つツインテールの少女に向けられている。
「みんなー、今日はメタるんのバースデーライブに来てくれてどうもありがとうです!」
「お誕生日おめでとう!」
人々は口々にそう叫ぶ。
「メタるん、とっても嬉しいのです」
「メタるーん! 可愛いー!」
人々は歓声を上げる。
「最後の曲、歌いますです!」
「イェーイ!」
人々が掲げているのはミニ松明。
それを楽しそうに曲に合わせて左右に振っている。
『何なのよこれ。こんな小娘にみんなデレデレしちゃって! 私の方が目が大きいし、スタイルだっていいんだから! ああ、人に見えない神の姿がもどかしいわね』
女神は形のよい眉を吊り上げてみせる。
弦楽器を持った男性がジャラーンとそれを鳴らしながら大きく腕を振り下ろすと、メタるんは観客に向かって手を上げてみせた。
『ふん、こんなヤツはこうしてくれるわ!』
女神がツマミを捻るとメタるんの声が低く割れたようなものに変化していく。
「びんなー、ぎょうはボンドウにありがどうです!」
さっきまで一糸乱れぬ動きで松明を振っていた観客達がザワザワと騒めきだす。
「ばれー、どぼじだんだろーです」
女神が更にツマミを捻ると、メタるんのピンク色の唇から漏れる声は悪魔の咆哮のようになっていった。
「ゴボボボッ」
観客達は何だか興醒めしたような顔になり、そのうちパラパラと捌けていった。
『きゃはははは!』
女神は満足げな声を上げる。
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