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「アンタんとこで買ったパン。硬くて食べられたモンじゃないんだよ!」
小太りの男性が、パン屋の店主だろうか、白衣を着てコック帽を被っている男を怒鳴りつけている。
「申し訳ありません。ウチはハード系のパンが特徴でして……」
「うるさいな! アンタのせいで顎が外れそうになったんだよ。どうしてくれる!」
「申し訳ありません……」
それでもパン屋の店主は辛抱強く頭を下げてみせる。
『あー、これはクレーマーってヤツね』
女神はツマミを思いっきり捻った。
「ギュル! ゴボバ!」
小太り男の発するものは、もはや言語としての体をなしていない。
スペクトルアナライザーに表示される周波数の山はいくつも伸びていて、倍音以外の音も鳴っているのがわかる。
「申し訳ありません。何とおっしゃっているのか、さっぱり……」
「ゴボバッ!」
小太りの男は唸り声を発すると、手に持っていたハードパンを店主に向かって投げつけてみせた。
「痛っ! 丹精込めて作ったパンを! なんてことしやがるんだ! 客だと思って下手に出てみれば。もう我慢できねぇ!」
店主は小太りの男に掴みかかった。男も負けじと殴りかかる。
『あららぁ。喧嘩になっちゃった。人間って醜いわね』
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