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山の頂から吹き下ろしてくる風が、大きく広げた木々の枝をザワザワと揺らしてゆく。
緑の葉の間から零れる光は彼らの足元に明るい模様を作り上げていたが、そこは下草も疎らでどこか不穏な空気が辺りを支配していた。
「……ねえ、やっぱりやめようよ。女神の山に登るなんて」
女はその細い腕を男の腕にしっかりと絡ませながらそう言った。
「新年以外に登ると祟りがあるなんてただの迷信だよ。本当に祟られたなんて話は聞いたことないだろ?」
男は余裕の笑顔をみせる。
「それは村人全員が掟をちゃんと守ってきたからじゃないの?」
「掟なんてもう古いよ。俺らは新しい時代の人間なんだ。それを証明してみせる」
「でも……」
「それに君も七色に輝くオリージアの花を見てみたいだろ?」
「それはそうだけど……」
「七色のオリージアはこの山でしか開花しないんだ。新年は花の季節じゃないし。それに……」
男は彼女を自らの方へぐいと引き寄せた。
「何かあったら、俺が絶対に君を守るから」
男の言葉に、女の瞳はとろりと溶けたように潤んでゆく。
「ステキ!」
「愛してるよ」
「私もよ」
人気のない鬱蒼とした森の中、二人は互いをひしと抱きしめた。
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