なにごとも形から

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なにごとも形から

 私は夫との離婚を本気で考えていた。理由は夫の性格だ。彼はとにかく形を気にするタイプなのだ。それが私の負担になっていた。  会社に着ていくシャツはシワがあったらダメ。だから毎日アイロンをかけないといけない)形状記憶のなのに!)。  会社のゴルフコンペに出るためと言って何故かシューズから探し始める。(それが社長のより良いヤツだったから、同行させられた私は居た堪れなかった)  そろそろ子供は、と言ったらベビーカーを買ってきた。十何万する海外の! ゴツいヤツ! いやこれバスの乗り降りとか絶対不便だから……。  とにかく夫は初期投資に太っ腹なのだ。はじめだけテンションあげあげなのだ。そのくせ超がつくほど飽きっぽい。  そのおかげで、これから生まれるかもしれない我が子の部屋が.夫の、買ったけど使っていないアレやコレやをしまうだけの物置に成り果てた。 (もう嫌。いっそのこと別れちゃおうかしら)  ピピッ。脇の下から抜いた体温計を見ると40度。 「私、死んじゃうかも」  ボソッと呟くと、いつの間にか帰ってきていた夫に車に乗せられた。  私は後悔した。  何故って。夫は形から入る人だから。  棺桶なんか用意されたら困る。いや、棺桶なんて悠長なことは言わず山に捨てられたらどうしよう。  自分が口うるさい嫁ということは自覚している。誰のせいで口うるさくなったと思うのよ。抗議くらいしたい。熱で苦しくてそれどころじゃないけど。  私の心配とは裏腹に、たどり着いたのは病院の時間外窓口だった。長い待ち時間の間、夫は私の手をずっと握っていた。会計を済ませ家に戻る。  玄関先で気がついた。  あんなに格好しいな夫の見た目がおかしなことになっている。上半身はかっちりシャツを着てネクタイを締めているのに、下半身は部屋着のテロテロな短パンだった。靴下は片方だけしか履いていない。靴は私のサンダル……。  思わず笑い出した私、ピキッと走った頭の痛みに顔を顰めた。
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