0人が本棚に入れています
本棚に追加
おかえり
息子が小学生に上がり、故郷に戻った。久しぶりのこの町はどこかよそよそしい。
午後三時過ぎ。まだ帰ってこない。今日はすぐ塾なのに。億劫だけど迎えに出る。
道沿いの一軒家の庭で息子を見つけた。一緒にいるのは多分この家の住人、白髪のおじいさんだ。
彼は私に気づき、
「あの時の」
と破顔する。
小学生だった私は下校途中で派手に転び膝が割れた。手当してくれたのがこの人で、彼は杖をついていた。
昼間からぶらつく大人なんてまともじゃない。警戒していると手術の後遺症で最近まで車椅子生活だったと聞き申し訳なくなった……。
もう杖のない彼に会釈する。息子の手を握る私の足取りは軽くなっていた。
(おかえり)と、町に言われた気がして。
最初のコメントを投稿しよう!