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 また、夏が巡ってきた。  電車を乗り継いで辿り着いた海岸。海の向こうの闇に紛れているが、この方角には昨年宿を取っていた小さな島がある。適当な岩に腰掛け、真斗は立てた蝋燭に火を点けた。  袋から取り出した一本を手渡すと、湊は嬉しそうに笑った。去年と同じ姿の彼は真斗のそばに腰を下ろし、花火の先を蝋燭の火にかざす。しゅーっという音と共に白い煙と炎が噴き出した。ウインドブレーカーに隠れがちな白い肌が、蝋燭と花火の灯りにぼんやり照らされる。  楽しげに笑う湊に、真斗は近況を語る。学校のこと、アルバイトのこと、実家に帰省した時のこと。相槌を打つように頷く湊の手から、やがて線香花火の丸い灯火が砂浜にふっと落下した。ぽたりと、聞こえないはずの音が微かに聞こえた気がした。  同じように、声も音もない湊の言葉が真斗には届いた。海に溶けて、今は自由にどこへでも行くことができる。海が続いている限り、昼でも夜でもどんな遠くへも泳いでいくことができる。初めて見る景色や人々に、決して飽くことはない。  それでも、やっぱり夜の花火が好きだと湊は言った。世界で一番心の惹かれる光だと笑った。  真斗も笑い返し、しばらくして静かに海へ帰っていく湊を見届けた。一度振り向いて大きく手を振る湊の影は、まるで初めてその姿を見た時のように、今は波の合間に揺れている。  黒い影が波間に消えて朝陽が昇る頃になっても、真斗は光に煌めく海の前にいた。少年を宿し輝く青い海を、ただじっと見つめていた。
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