<1・Hunting>

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 ***  バーチャルリアリティゲーム、“ハンティング・ワールド”。  仮想現実の世界に入り、“世界を守る勇者”となってモンスターたちと戦うというシンプルな趣旨のゲームである。この世界で言う勇者とは、魔王と戦うタイプの勇者ではない。ハンティング・ワールドで脅威となっているのは魔王とか魔族ではなく、どこから湧き出したのかもわからない大量のモンスターたちであるからだ。  この世界は、ハンティング・キングダムという名前の王国が統治していることになっている。  突然あふれ出したモンスターとそれに伴って増え続ける被害。王国の兵士たちだけではどうにもならなくなったので、国王は国中から“モンスターから人々を守ってくれる勇者”を募るようになったのだ。各地にあるギルドを経由してミッションを与え、その成果によって報酬と地位を与えるシステム。優秀な成績を収めた勇者は“レジェンド”と呼ばれ、最大で侯爵と同等の貴族の地位を得ることもできるとされている。  もちろん、モンスターを倒してはぎ取った素材なんかも自分で好きに使っていい。素材を利用して勇者たちはまた新しい武器や防具を作ったり、高く売ったりして生計を立てている――という設定であるわけだ。  どこにでもあるようなゲーム。最初は、龍也もそう思っていた。  しかし友人たちに誘われて実際に始めてみれば、この臨場感がまたたまらないものであったのである。なんといっても、バーチャル世界に入って楽しむというのがいい。ゲームをしている最中は本当にこの世界の住人になっている気分になれるし、本当に現実で死ぬことはないとはいえモンスターと戦う時の緊迫感はたまらない。  仲間と力を合わせて戦うこともできるというのがいい。龍也は一人で狩りに行くより、友人達と一緒にさっきのティラノドラゴンのような大型モンスターを狩る方が大好きだった。 「終わったぞータルト」 「ん」  ギルドの待合室。ベンチで座って端末を見ていた龍也は、声をかけられて顔を上げた。  双剣使いの“キル”。本名は“多摩霧人(たまきりひと)”。龍也の高校時代からの友人だった。自分をこのゲームに誘った人物でもある。  この世界では、自分とまったく違うビジュアルを設定してプレイする人間が非常に多い。龍也もリアルの“二十六歳の、眼鏡の冴えないサラリーマン”ではなく、筋骨隆々で短髪の大剣使い・タルトということになっている。それに対して霧人は、細身で長身のモデル体型の美青年だった。――髪の毛が銀髪であることを除けば、現実と見た目がさほど変わっていないのが腹立たしい。リアルでもかっこいい人は本当に羨ましいよなと思ってしまう。  まあ、彼が見た目だけかっこいい人間、ではないからこそ友達をやっているわけだったが。 「今日の報酬は、ティラノの巨角二本、茶色の被膜三枚、ドラゴンの皮が五枚にドラゴンの骨が四本。それと、ルビーの目玉が二個ってところだな」 「え、頭蓋骨取れなかったのか?」 「残念ながら。ゆえに、ハマクラがそこでしょんぼりしてのの字を書いているわけだ」
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