<1・Hunting>

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 ほれ、と彼が指さす先。大きな銃を背負った大柄な男が、しょんぼりと床にしゃがみこんでいる。今日一緒に戦った仲間のハマクラだった。  ちなみに彼はリアルで会ったことがないので、本名も年齢も知らない。ああいう人が、実は中身は女性だなんてこともあったりするのがバーチャルの面白いところである。  こういったゲームの魅力の一つが、現実の自分とはまったく違う自分になれること、でもあるのだから。  このゲーム内で知り合って、友達になった人は何人もいる。その多くが、リアルではどういう人間なのかさっぱりわからない人物ばかりだ。  が、それを特に気にしたことはない。このゲームで重要なのは、真っ当なコミュニケーションが取れること、目的のためにきちんと協力しあえること、それに尽きる。むしろ現実でどんな人間かなんて、気にするだけ野暮というものだ。 「そんなに頭蓋骨欲しかったのか」 「みたいですねえ」  のんびり言ったのは、小柄な金髪の少年だ。彼の名前は“金華(きんか)”。シーフタイプで、素早く翻弄する攻撃を得意とする短剣使いである。言動はおっとりしているが、戦闘では的確な攻撃と指示をしてくれる優秀なプレイヤーだった。  勿論、この少年のリアルの名前や性別も龍也は知らない。知る必要もないことである。 「ティラノメテオガンが作りたかったみたいです、彼」  霧人の肩をぽんぽんしながら言う金華。 「キルさんのこの肩当ても、確かティラノドラゴンの頭蓋骨加工して作ってるんですよね。確かにこれは頑丈だ、欲しいのもわかる。……でも、頭蓋骨はレアアイテムだから、なかなかはぎ取れないんですよねえ」 「まあ、ハマクラもそれはわかってたとは思うけどな。今日はいつにも増して手間取ったから、余計ショックだったんだろうな」 「ですね」  ティラノメテオガン、は銃使いにとっては憧れの武器の一つ。土属性の弾を打ち込めるので、風属性モンスターには非常に有効なのだ。  まだ自分達が倒していないモンスターの中に、風属性の強力なモンスターも何種類かいる。多分そのどれかが、彼にとってお目当てのモンスターなのだろう。  男として生まれたからには、より大きく、強い敵を倒してみたいものである。それがロマンというやつだ。まあ、所詮ゲームだろと言われてしまえばそれまでだが。 「ハマクラ、ハマクラ。お前いつまでもしょんぼりしてないでこっち来いって」  ちょいちょい、と俺は彼を手招きした。 「ドロップしなかったものを嘆いてもしょうがないだろ。またティラノドラゴン狩り付き合ってやるから」 「うう、すまん、タルト……」 「いいって、気にすんな。キルも金華も、いいよな?」 「ああ、いいぞ」 「いいですよー」  この面子で一緒に狩りをすることは珍しくない。多分、ハマクラがしょんぼりしているのは、最近自分の都合で他のモンスターではなくティラノドラゴン狩りに協力してもらうことが多かったから、引け目を感じているというのもあるのだろう。  ただ、四人で集まってゲームをするのは当然制約がある。
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