<1・Hunting>

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<1・Hunting>

 ドスン、と大きな地響きが鳴った。  茶色と黒のまだら模様を持つ、筋骨隆々の足が地面を踏みしめる。その爪が土に食い込み、そのたびに大地を激しく揺らした。 「オオオッ」  その怪物の姿は、恐竜のティラノサウルスに近いかもしれない。ごつごつした皮膚。ぎょろりと血走った目。強大なかぎ爪のついた前足と、筋肉が発達した後ろ足。長い尾をぶんぶんと振り回すたびに、周囲の木がバキバキと音を立ててなぎ倒されていく。  ティラノドラゴン。  その名の通り、一応はドラゴンの一種とされている。ただし背中の羽根はかなり退化していて、空を飛ぶことは叶わない。精々、山の麓から滑空するくらいしかできないとは言われている。  だが、二足歩行ができるその体は4メートルをゆうに超え、人間をぺしゃんこに踏みつぶすには十分なサイズと言っていい。当然、しっぽにぶち当たればあっさり鎧も骨も砕かれるし、爪でひっかかれたらどうなるかなんて一目瞭然だ。選択を一つでも間違えば、一瞬にしてハンバーグになれてしまうことだろう。 「気を引き締めろよ、みんな!」  自分――タルト、こと利根川龍也(とねがわたつや)は。大剣を構えた状態で、仲間たちに声をかけた。 「ひっさしぶりの大物だ。腕が鳴るってもんだよなあ!」 「ああ、頑張ろうぜタルト!」 「俺、俺!アレの頭蓋骨欲しい!素材足らなくて困ってんだよおおおお!」 「馬鹿、そういう交渉は勝ってからにしろって!!」  自分達は勇者。  この世界を脅かす恐ろしいモンスターたちを倒し、人々の安全と安寧を守るのが自分達の仕事だ。  大物を狩れば狩るほどギルドから報酬が貰える。同時に、町の人々からも感謝される。こんなに楽しく、やりがいのある仕事はないだろう。たとえそれが、命の危険に晒されることであったとしても、だ。 「オオオ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」  怪物が、吠えた。  自分達の存在に気付いたからだろう。愚かで矮小な人間を嘲っているのか、あるいは腹を立てているのか。  いずれにせよ、自分達の選択は一つだ。 「ぶったおす!」  龍也は大剣を振り上げ、先陣を切って突撃したのだった。
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