Viraha

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ねえ。思えば、わたしら……いつも正反対だった。 だってそうでしょ? あなたは右利きで、わたしは左利き。 あなたは健康的な朝型で、わたしは夜のほうが冴える夜型。寝坊常習犯のわたしだから、あなたに起こしてもらうのは日常茶飯事だった。 あなたはのんびり屋で、わたしはせっかちな性格。ときどき、時間にルーズなあなたが無性に許せなくなった。 あなたはクラシックを聴くけど、わたしはレゲトンに夢中。 あなたは冬が好きで、わたしは夏が好き。あなたの肌は雪のように白く、わたしの肌は小麦色に焼けている。 あなたは文系で、わたしは理系。 朝食だって、あなたはパン派でわたしは米派。 あなたは甘いものに目がなくて、わたしは辛いほうを選ぶ。 あなたは歩くのが好きで、わたしは電車が好き。 あなたは桜萌ゆる春風が好きで、わたしは雷雨が好き。 あなたは暑がりで、わたしは寒がり。クーラーの温度は、いつもわたしに合わせてくれたね。 最初に好きになったのはあなたなのに、告白したのはわたしのほうだった。それも「いっしょに住んだほうが楽じゃない?」みたいなかんじで。 あなたは不器用なりに、気持を伝えようと一所懸命だった。わたしは照れてしまい、気持から逃げて、言い訳ばかりかんがえていた。 結婚してからのあなたは、毎晩わたしに「好きだよ」と言ってくれたけど、わたしはいちども言えたことがない。 あなたは生まれつき身体が弱くて、そのぶん勉強したり毎日の努力を続けられる人。わたしは体力が無尽蔵にあって運動神経抜群、だけど飽きっぽい人。 あなたは感受性ゆたかで、いっしょに映画を観るとしょっちゅう泣いていた。わたしは現実主義者で、フィクションの物語にふれて涙をながすことは滅多になかった。 あなたは感謝と感動をわすれない人だった。ベランダの鉢に植えたアングレカムが花を咲かせたとき、ほんとうに嬉しそうに笑っていた。正直わたしは花なんて興味なかった。ただ、あなたにとって大切なもの、わたしにとっても尊いものに映るんだよ。 あなたは最後、わたしに「ありがとう」と笑ってくれた。わたしは「ごめんね」って泣きつづけていた。 「もう会えないの、嫌だ」と、わたしが言ったら、あなたは「だいじょうぶだよ」と言った。「また会えるから。いつもそばにいるよ」それはなんだか、とり乱すわたしを体よくあしらうための方弁みたいにきこえてならなかった。あなたの言葉の外側で、わたしは絶望していた。 あなたが息を引き取る間際、わたしは「好きです」と、初めてあなたに伝えた。「ずっと愛してました」って。 わたしな不機嫌なとき、あなたに返事しないことがよくあったけど。あなたがわたしを無視することなんて、いちどもなかったのに。 あなたは瞼をとじたまま安らかに笑みをうかべ、二度と目覚めることはありませんでした。 あなたのいた世界は、あんなに輝いていたのに。あなたがいなくなって、わたしは伽藍堂にひとりぼっちでいるみたい。 ねえ。わたしらが出逢ってから、あなたのいない初めての春がきたよ。
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