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鼓膜をぶん殴るようなドスの効いた声に即座に後ずさると、勢い余ってベランダの壁に後頭部をぶつけてしまった。
厄日なの?私今日、厄日なの?
あまりのツキの無さに心が折れそうだ。
「…ぶっ」
「何笑ってるの颯ちゃん…」
「いや悪い、ふは」
「何で地味にツボってるの…もうやだお嫁に行けない…」
「もらい手もいないけどな」
「じゃあ颯ちゃんでいいよ…」
「なんで妥協案が俺なんだよ」
第一、全身で体当たり食らわすような奴はごめんだわ。
そう付け足した颯ちゃんは、せっかくの笑顔をまた無表情に戻してしまう。そうしてそのまま立ち上がり、服の汚れをはらった。
「で、立たないの?不法侵入者さん」
しゃがんだまま見上げている私に、彼が問い掛ける。
「…立ちたい」
「なら立てよ」
「……」
「……たく、正直に言え馬鹿」
はあ、と呆れるようなため息を零し私の前にしゃがむ彼。
鼻、高いなあ。まつ毛が光に反射してる。私、反射なんて一度もしたことないよ。
よくよく考えるとしっかり彼の顔を拝むのは久々で、その整った顔立ちについ視線を逸らした。
彼は続けて、はっきり口を開く。
「どっちの足、痛めた?」
--こういう所だ。
「…なんで気付くの」
こういう所がずるくて、こういう所に私は弱いんだ。
「右だな」
ほら、と背中を向けてくる颯ちゃん。もうやっぱ、好きだなあ。
「…いいの?」
「今日だけな」
「部屋に上がるのも?」
「…今日だけ、な」
どうして、なんて聞けない。
その答えを知ってしまえば、私はこの人から離れられなくなる。どれだけ困らせてでも、欲しく、なってしまう。
「…颯ちゃんは素直じゃないなあ」
「…いいから乗れ」
少しだけ躊躇しながら、昔の面影なんて少しもないくらい"男の人"な肩に、手を置いた。指先から導火線のように、熱がどんどん登ってくる。
……知らないヒト、みたいだ。
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