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ベランダの上で。
「降ろすぞ」
「…うん」
降ろされたベッドに腰かけてきょろきょろ見回していると、颯ちゃんの言葉を思い出した。
『お前もう、俺の部屋来るの禁止』
……思えばそれが私の、ベランダでのお出迎えの始まりだった。
その時颯ちゃんは受験生だったし、てっきり勉強に集中するためかと思って素直に頷いたけど、大学受験から数年が経った今もその禁止令は続いている。
私は颯ちゃんの口から、理由を聞きたいのに。
「一応湿布貼ったから、炎症治まったら温めな」
「うん、ありがとう」
「ん。…で、本題」
キャスター付きの椅子を引っ張ってきて、私の前に腰かける颯ちゃん。
本題ってなんの事だ。怪訝な顔で首を傾げている私に、彼は少し呆れた様子で『不法侵入までした理由だよ』と付け加えた。
「え」
「えじゃないわ」
「……今日が今日であるから」
「哲学的表現はやめろ」
華麗なツッコミで一蹴されるけど、嘘ではない。颯ちゃんだって言っていた。今日だけ、って。
「…なんで俺の部屋、出入り禁止にしたかわかる?」
静かな部屋に、ぽつりと落ちた問い。……こうじゃない。私はもっと、他愛もない話をしに来たのに。
「…わかんない」
「だろうな」
「教えてくれればわかるよ」
「教えてもわかんないよ、お前は」
「…どうして、」
そんな事言うのと続けるはずだった声が、透明になって空気に溶け込む。
「…ゆずが、ゆずであるから?」
…彼がまた、”知らないヒト"になった。どこか切なげで、だけど奥底に熱を込めた、惹きつけて離させない眼差し。
───溶けて、しまいそうだ。
「意地悪」
「真似しただけだろ」
「……ねえ、颯ちゃん」
「ん?」
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