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23時に、
夜23時のベランダに、私は命を懸けている。
なんて言ったら彼は、『ずいぶん安い命だな』と眉を顰めていたけれど。
私はきっとこの先も、この時間のこの場所を死守し続けるのだと思う。
「あっ、颯ちゃん!おかえりなさい!」
自分の部屋のベランダで待ち伏せして十数分。
時刻はちょうど23時を過ぎた。
目下の道路に愛しき人影を見つけた私は、静まり返る住宅街に精一杯のお出迎えを響かせる。
「……ゆず、近所迷惑」
”おかえり”には”ただいま”を返す、なんて決まりは、彼の六法全書にはないらしい。
返ってきた言葉はつれないけれど、これもまた彼の魅力なのだ。
私は構わず、犬の尻尾みたいにブンブンと手を振った。
昔はあまりの騒がしさに、窓から近所のおばちゃんが、不機嫌そうな顔を覗かせることもあったけれど。めげずに続けているうちに、今ではもう何も言われなくなった。
つまりこれはもう、ご近所さん一帯の公認の仲と言っても問題ないってことじゃないだろうか。うん、きっとそうに違いない。
「子供は寝る時間だろ。おやすみ」
……まあ肝心なご本人様は、微塵も好意を寄せてくれないんだけども。
「って、ちょっと待って颯ちゃ、」
パタン。私の声は一切拾われないまま、容赦なく閉まる扉があっけなく颯ちゃんの姿を隠してしまう。
「む、無慈悲な……」
誰も見ていないにも関わらず、誰が見ても分かるほどに肩を落とし自分の部屋へとぼとぼ戻った。
--彼、颯ちゃんと私は、3歳差の幼馴染だ。最近先に成人してしまった彼は、とにかく忙しい日々を送っているらしい。
法学部なんて桁外れな道を歩み始めた上に、学費を稼ぐためほぼ毎日夜遅くまでバイト。
来月に控えた学祭の準備もあるみたいだし、きっとものすごい過密スケジュールをこなしているんだろう。
そんな多忙な彼を堪能できる時間なんて、もう一瞬あるかないかなのだ
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