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2023年
僕を僕たらしめるもの━━名前、外見、交友関係。
周囲から僕の記憶を消せば、僕はいながら僕だと認知されなくなる。
それ即ち僕の消失! 閃くなりタイムマシンに乗った。
僕はこの問題に固執していたから、後先など考えていなかった。
半世紀先の未来・2023年の人々は、髪も目の色もとても奇抜だ。
ひとまず交番に入った、保護してもらいたい旨伝える。
「気づいたらこの世界にいて記憶がないからどうにかしてほしい。
そりゃお前、転生ものの読み過ぎだ」
どうして助けてくれないのだろう、僕には分からない。
「これがタイムマシンです」
配線剥き出しの箱を台に載せた。
しかしお巡りさんは呆れた声を上げ、すぐさま手で払ってしまう。
硬い床に打ちつけられた衝撃で、タイムマシンは大破した。
「ふざけていないで帰りなさい、君。中学生くらいだろう、親が心配する」
「親はいません(この時代には)」
「じゃあどっから来たの、来た場所に帰りなさい」
それは、と言葉に詰まる。たった今僕は目の前で、帰還の手段を失った。
帰りたくても帰れない、設計図は過去ある。
僕はトボトボ交番を後にすると、公園のベンチに腰掛けた。
すると学ラン姿の、大柄な男に声をかけられる。
僕が落ち込んでいるから、話しかけてくれたのか。
「金出せよ」胸ぐらを掴まれた。「聞こえなかったか。金、を、出せ」
渋々財布の中身を出す、関わったら面倒そうだ。
「はあ、誰だよこれ。こんなんじゃ自販機使えねえし」
なんと心外な。
「確かに太子は持ち合わせていないが、博文に具視だ何が悪い」
気持ち悪い虫でも見るが如く、学ラン男は言い捨てた。
「五百円は紙幣じゃねえ」
一円も巻き上げないまま、男は去っていった。
病院を訪ねると、受付の人から"予約のない方は受診できません"と即刻断られた。
だから学校職員室に飛び込むのだけど、今度は"先生方の働き方改革のため、放課後は速やかに下校ください"と早く出ていくよう促される。
「その住所ならタワマンが建っているわ、貴方そこの住人なの。
悪いけど貴方のその外見は」
富裕層には見えない。
「今時血液型を知っている子も珍しい」
褒められたいわけじゃない。
「それは町村合併前の名称だ、真面目に答えなさい」
名前、年齢、住所、血液型、得意な教科、等々。
僕は僕を形作る、あらゆる内容を正直に話した。
すると思った通り誰も僕のことを知らなくて、誰も僕を信じない。
目的は達成できたのに、何故だろう、この虚しさは。
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