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2025年
あれから二年の月日が経ち、今僕は施設にいる。
巷では高校生と呼ばれる年齢になった。
身寄りがなく、また半世紀近い時事問題を何も知らない僕は、晴れて保護対象となったのだ。
今ではスッカリこの時代の電子機器も使い熟せるようになり、人の順応性に驚きつつも、大学受験に向けた資格取得の勉強をしている。
折角なら医学部を目指したいと思うのは、父への当てつけか。
両親の消息を調べるため、記憶にある菩提寺を訪れたが、別家の墓が建っていた。
話しを聞くべく住職を探したが、遂に会えなかった。
あの時代に珍しく僕はひとりっ子だったから、守り手がおらず墓じまいしたのかもしれない。
ひとりっ子だからこそ、期待を一身に背負ったのだ。
自宅があった場所は周辺一帯にタワマンが聳え、父の病院があった場所も今や大型ホームセンターだ。
ネット検索を幾度も繰り返したが、知りたいのは半世紀も前のこと。
つまり何も判らなかった。
『あらいたの、おかえり』
今となっては懐かしい、母の"おかえり"の声が浮かぶ。
僕がどれだけ失敗しても、腐ってヤル気を失っても、母は僕の味方だった。
いつも寄り添い励ましてくれた。
人工的なエアコンの送風が、優しく僕の髪を撫でる。
窓から差し込む西日が眩しい。
予定調和のこの世界において、僕の存在だけが異質だ。
相応しくない僕は弾かれるだろう、その時僕は消えてしまう!
今頃になって母の温もり……僕の背中を何度も摩ってくれた、母の掌の暖かさをまざまざと思い出したのだ。
嫌だ、消えたくない、生きていたい。
僕はもう一度、タイムマシンを作りたいと思っている。
消えるが先か、完成させられるのか。分からない、けど諦めない。
家に帰る、玄関に立つ、母がひょっこり顔を出す。
ただいまって僕が言う、おかえりって母が言う。
そんな未来(過去)を願って、僕は今日もひとり呟いた。
「ただいま、母さん」
大きくなった僕を見たら、きっと母さん驚くな。
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