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 岩場全体がパニックになったような騒ぎである。  眼下から不意に現れた雲は濃い霧となって我々の視界を遮った。岩場全体が霧に包まれたのである。 「まずいぞ」と隣で柿崎の旦那が立ち上がる。急な天候の変わりようである。 「ああ、だめだ」  霧に包まれてすでに数分が経っていた。気づけば日の出時間をとうに過ぎている。うっすらとした霧の向こう側で東の空が白く明るい。ちょうどご来光を待ち受けていたかのように雲が邪魔をしたのだった。  岩場の登山客たちは嘆き声を上げながら方々に散り始めていた。完全に日が昇ってしまっていた。  その場で呆然とたたずんでいた俺たちは、やがて仕方ないとばかりに立ち上がった。その頃にはすでに霧も散り始めており、青空が見えていた。しっかりと太陽が昇っている。フェスは終わったのだった。 「また来年も来なさい、ということなのでしょう」  山男らしく旦那はポジティブにそう言った。  下山の集合場所に集まった老人方はみな落胆していた。山本だけが、逆にこんな面白い経験は笑い話にできますぞ、と豪快に笑った。  山頂に別れを告げ、下山道に入る。下山は登りとは別のルートになる。スイッチバックのようにジグザグとした直線の砂利道をひたすら下る。途中で山小屋に寄って、居残り組と合流しますと山本は言った。
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