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妻はよく、自身のことを「諦めが悪い」と評していた。それは時に自戒と自嘲を籠めて、けれど多くは、そんな自分自身を誇らしげに思う気持ちで放たれた言葉だった。その眩さに勝るものを、私はこの世に太陽しか知らない。それほどに力強く、逞しい光であった。
「そんなお前が、よく私に嫁ぐ気になった」
籍を入れて間もない頃、私はその眩さへの嫉妬と嘲弄を籠めて、妻に対しそう言った。もとより双方にとって政略的な結婚である。お互い、籍を入れてから顔を知ったようなものだ。そんな婚姻を、素直に頷くような娘ではないと、当時の私は彼女の諦めの悪さを幼い頑なさと勘違いしていたのだ。
そんな私に対し、妻は怪訝そうな顔をした。怪訝そうな顔をして、言った。
「それが私の責務ですから」
そこにあったのは間違いなく諦めではなかった。自身に与えられた役割に、ただ従うだけのものではなかった。その責務をきちんと意識し、背負い、その上で自分の足で立っているものだけが放つ力強さがあった。
それは、私にはない強さであった。妻には決して負けることも劣ることもないと自負していた私にはない強さが、そこにはあった。
ゆえにこそ、そんな妻が困ったように笑いながら「諦めた」ときは、私の方が狼狽した。
「諦めの悪さが自慢なのだろう」
「私の諦めの悪さは、ただがむしゃらになんとかしよう、っていうものではありません。考えて考えて、一でも二でも、良い方を選んでいくこと」
ふう、とため息をついて座る妻に寄り添う。体格の違いにももう慣れた。
「アーヴィンは知っていたんでしょう?」
こちらを見上げて問う妻に、私は目を伏せた。
そうだ、私は知っていた。妻が今の今までなんとかしようと足掻いてきたことが、無駄であることを知っていた。知っていて妻には黙っていた。
けれど、妻はそんな私の沈黙を責めることはなかった。
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