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だが、私はその言葉が決して叶わないことを知っていた。
妻を人ではなくカルロータと認識し、触れ合うだけの夜を幾度も重ね、他の竜に抱くのと――たとえば遠く人の世界に行ってしまった妹に抱くのと、同じ愛情を彼女に抱く中で放たれたその言葉は、おそらくは、竜も人もその根底のどこかで願っていてもおかしくないものだった。食うために殺してきた相手が、自身と同じ感情を抱き、言葉を紡ぐことを知ってしまったなら、もうかつてのように踏みにじることなどできるはずもない。
彼女は、私以外の竜とも言葉を交えた。時に無視され、時に殴られ、けれど時には耳を傾ける者もいた。剣呑とする空気に私が仲裁に入ることもあれば、同じように笑っているのを見守ることもあった。
そうして私は、一頭の竜のもとに彼女を連れて行った
「彼は?」
「我らの知恵である」
洞窟深くに静かに眠るのは、人の目から見ても老齢とわかる竜。だが、それと同時に、ただものではないこともまた、妻は敏感に感じ取っていたようだ。
「アズラエラ様」
私が呼びかければ、静かに首を擡げた。灰色の瞳がこちらを見る。王族のみ会うことの許される老竜。
「……若き王とその妻か。いかがした」
「彼女に、いずれ来る裁定の日のことを伝えたく、参りました」
隣で妻が怪訝そうにするのが伝わってきた。
彼の竜は神託を告げる者だ。歴代の王は皆、彼の言葉を聞き、国を治めた。協定を結ぶ際もまた、伺いを立てた。その口から放たれる言葉は我々にとって絶対であり、そして私は、それを知らぬ妻に、あることを知ってもらうために連れてきた。
「……なるほど。人の世には伝わっておらなんだか。或いは、それもまた神の意志なのやもしれぬ」
静かな声が洞窟内に響く。
「人の子よ。我らが若き王の妻よ。聞くが良い。いずれ神は裁定を下す。我らか、汝らか、いずれかを剪定する。そしてその日は近い。……諦めよ、我らはどうあっても、共に生きることなどできぬのだ」
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