渓間の淵にて

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 目を覚ましたとき、私は草原の上に寝転んでいた。体を起こして辺りを見渡すも、一面草原である。  ここはどこであろう。私は、つい先まで伴侶と共に何か大事な話をしていた気がするのだが。  ふと、遠くから私を呼ぶ声がした。そちらを向けば、誰かが、否、家族がこちらに向かってきているところであった。  家族、そうだ私の伴侶はどこへ行ったのか。辺りを見渡すが、こちらに向かってくる彼らの姿以外、何もない。 「………………」  いや、そもそも果たして、私はいつ結婚したのだろうか。  伴侶の顔を思い出そうとするも、何も思い出せない。何か大事な話をしていた気がするも、それも思い出せない。夢を思い出そうとでもするかのように、頭を捻るごとに逆に記憶は白くなっていく。 「姉様! もう、勝手にいなくならないでくださいませ!」 「――ああ、ごめんなさい、マリセラ」  私のもとにいち早く駆け付けてきた妹は、狩りの姿をしている。 「カルロータ、いくらお前が狩りを得意としていても、単独行動はやめよ」 「すみません、父上」  そうだ、私は何を考えていたのだろう。今日は皆で狩りに来ていたのだ。マリセラとどちらが多く獲物を仕留めるかなど、そんな話をしていたのだ。 「……姉様、どうかされましたか。お顔が悲しそうです」 「そうかしら?」  不意のマリセラの言葉に、困ったように首を傾げる。それから、空を仰いだ。中天に臨む太陽が眩しく、目を細める。 「少し、うたたねをしていて、それで、悲しい夢でも見たのかもしれないわ」 「もう、姉様ったら余裕ですね!」  私の言葉に、マリセラが先までの心配そうな顔が嘘のように膨れてしまった。それに、謝りながら一度大きく伸びをする。寝たおかげか、気分はなぜかすっきりしている。 「さあ、競争の続きですよ、姉様!」  そう言い放ったマリセラの言葉を合図に、私は未だわずかに残っていた記憶の断片を振り払った。
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