冷たい指

1/1
前へ
/29ページ
次へ

冷たい指

「今日はどんなことをしましょうか?」 私をじっと見つめて先生は微笑んだ。指先がグラス越しに伸びてくるのが見えた。キャンドルに照らされたテーブルの上に掌をそっと置き、冷たいその指先を迎えた。 細く長い指は、掌の傷と指とを思わせぶりに動く。 この艶めかしい指が、 いつも激しく優しく愛撫し、慰め、癒す…と同時に、悩ませる。 「先生のお好きなように。」 指先の戯れで、私の甘く淫靡な妄想は膨らむ。 先生は、そんなふしだらな私を見透かし、試す。 突然、絡められていた指が私から離れた。 訝しげに顔をあげると、 ウェイターが恭しく料理をこちらへと運んできていた。 そして、湯気があがる皿を丁寧にテーブルの上に置いた。 置き去りにされて、取り残された私の手…は近くにあったグラスをゆっくりと持ちあげた。そして一口分ほど残って居たワインを飲み干した。 運ばれてきたシャトーブリアンの香ばしいかおりが鼻をくすぐった。 「柔らかいですね」 先生は確かにそう囁いた。 その呟きを聞き、ウェイターは満足そうに立ち去った。 「本当に…。」 最初の一切れを口にした。 先生は無口だ。だけど寧ろそれが、気楽で良い。 よくある沈黙の居心地の悪さを言葉で埋める必要は無いから。 「いえ…僕が言ったのは、あなたの指のことですよ」 先生は空っぽになった私のグラスに、 おもむろに二杯目のワインを注いだ。 静かで居心地の良い時間は、いつもゆったりと過ぎる。 テーブルの下で偶然、 先生の足が私に触れたような気がした。 「今日は素足なんですよ。」 来る途中で、ストッキングが伝線。 買いに行く時間も無かった。 先生は5-10分待ち合わせに遅れても何も尋ねない…だけど、 早く逢いたい。 先生は熱いコーヒーを飲みつつ、 暫く返事をせずに窓の外を眺めていた。 「ええ。知っていましたよ」 ちらりと一瞥しただけで、再び窓の外へと視線を戻す。 パンプスをテーブルのしたで脱ぎ、先生の膝にそっと足を乗せた。 窓ガラスに映る先生が含み笑いをしたように見えた。 程なくしてテーブルクロスで隠された先生の細い指が、 私の足首の上を滑らかに泳ぎ始め、暫くすると大胆に淫猥に蠢いた。 その指はいつもひやりと冷たい。火照った脚にはとても心地が良い。 早く二人きりになりたいと思いつつも、その感触を愛でる時間。 何も言わずただ見つめあうだけのふたり。 先生は、膝の上から足をそっとおろした。 「随分とあなたを待たせてしまいました。では行きましょうか?」 微笑みながら、 靴を履くようにと私を促した。 レストランを出てホテルまで街路樹を眺めながら歩く。 このあたりはよくニュースなどでも取り上げられるが、 今年は桜の開花が遅れていて、どの枝の蕾も硬く口を閉ざしている。 「ここから歩いて10分程ですから…。」 大きな通りを抜けると、街灯の下で男性ばかりの酔ったグループが騒いでいた。車道側を歩いていた先生が、すっと私の右側に回った。  私達の元に酔った男性が、ふらふらと近づいてきた。 先生に遮られ、私からは少し距離があった。 男性は、吐き気を催しそうな強い酒臭を纏っていた。 そしてにやにやとしながら、卑猥な言葉を投げかけた。 「先ほどから見ていましたが、あなた方は、少々飲み過ぎですよ」 口調はいつものように丁寧だったが、語気が鋭かった。 私の肩をぐっと庇うように抱き寄せ、早足で歩きだした。 背後から笑い声と冷やかしが聞こえた。 私の肩は先生に守られ、その温もりがシャツを通して伝わり、 とても心地が良かった。 無言で暫く歩いた。角を曲がる前に、そっと後ろを振り返り、ほっとした。 「足は大丈夫ですか?」 ふと足をみると、パンプスで靴連れを起こし血が滲んでいた。 先生は私の肩をそっと離し、横並びで歩いた。 先生はいつもよりもゆっくりと隣を歩いてくれた。 ホテルの斜め横に小さなコンビニがあり、 先生は ちょっと寄りましょうと言った。 「丁度良かった。私も買いたいものがあったんです」 …明日用と予備のパンスト買っておこう。 コンビニに入り、手前から2番目の商品戸棚から淡いベージュ色のストッキングを2枚手に取った。店内にはスーツ姿の男性客が数人だけ。 レジには2人並んでおり、その後ろに並んだ。 先生は探さなくても背が高いのですぐに判った。 気づくと先生が私の後ろに立っていた。 そして、私を上から覗き込み、持っていたストッキングを私の手から摘み上げた。先生の大きな手の中には、缶コーヒーがふたつと絆創膏があった。 先生と肩を並べて順番を待った。支払いはいつも先生。 レジ打ちの青年はきびきびと客をさばいたが、目が良く合ったので 少々居心地が悪い。先生はストッキングが2枚あるのに気が付いた。 「お気遣いはありがたいんですが、僕の分は要りませんよ」 先生は冗談なのか、 本当なのか判断が付きにくいことを真面目な顔でボソッと呟く事がある。 きっとこれもその類だ。 …もしかしたら…男性いけるのかも…? レジの青年がまたちらりと私をみたので、 先生に会計を任せ、雑誌コーナーで待つ。 「お客さん 背が高いっすね…200近くありますかね?」 レジの青年の声がした。 「…ええまあ」 キャッシャーが開く音が聞こえた。 「あの…。」 キャッシャーが急に声を潜めた。 「…メンズパンストなら2丁目で、見つかるっすよ。ネットより種類も豊富っす。」 とても小さな声で囁いたらしい 短い沈黙が流れる。 「そうなんですか」 先生の僅かな動揺。 「前から思ってたんすけど…カッコいいっすね♪」 どうやら先生はこのコンビニを良く使うらしかった。 笑いが込み上げてくるのを必死に耐えた。 先生の後についてコンビニを出た。 「2丁目にあるようです…僕のサイズ」 声を潜めて真面目な顔だった。 …2丁目にあるようです。 堪えることが出来なくて声を出して笑った。 「残念ながら、ストッキングを履く趣味は今のところは…無いですね。」 そして先生も笑った。 ホテルに入り、広い吹き抜けのロビーを抜け、エレベーターホールへと歩いた。 パンプスの音がコツコツと大理石の床に軽い音を立てて響いた。 エレベーターはすぐに降りてきて、先生は開いた扉へと先に歩きだした。 左手にはコンビニの袋が握られていたが、私はその手をそっと繋いだ。 先生は袋を持ち変え、しっかりと繋ぎ直したので、ひんやりとした大きな手の中に包み込まれた。ちらりと見上げると先生の口元には笑みが浮かんでいた。 エレベーターに乗り込み、 最上階のボタンを押した先生は、私の手をしっかり繋いだままだった。 部屋に入ると、パンプスを脱いだ。まだ少し血が滲んでいたが、痛みは無かった。 …素足でなんてこなきゃ良かった。 ゆったりとした室内にはキングサイズのベッドがあり、 足側の壁には大きな鏡が張られていた。 クローゼットの向かい側には洗面所があり、 小さなコーヒーとお茶のセットが目に留まった。 「先生 何かお飲みになりますか?」 「いいえ。僕は結構です。何でも好きなものをお飲みなさい。」 ネクタイを緩め乍ら、冷蔵庫を指さした。 部屋には、ソファーとテレビ、チェストそして小さなデスクもあった。 室内は冷え冷えとしていたが、暖房をつけるとすぐに暖まり始めた。 客室は二間続きで、開いたドアの先にもうひとつ薄暗い部屋が見えた。 先生はスマホでメールをチェックしたあと、留守電を聞いていた。 …まだちょっと時間が掛りそう…かも。 冷蔵庫をそっと開けた。中から小さなワインボトルを取りだした。暫くスクリューキャップと格闘したが結局開かず、諦めてキャビネットの上に置いた。 そして、音を立てないように静かに洗面所へ行き 鏡を見た。 明るく映し出された顔は、自分では無いような気がした。 どんなに一緒に過ごしても、 この“待つ時間”は、期待と不安が最高潮に交差しあい緊張する。 洗面台の右端には、使われた歯ブラシがひとつ。 バスルームに入りシャワーを捻る。 勢いよく出たものの、なかなか温かくならなかった。 ブラウスのボタンをひとつふたつと外しながら、部屋に戻ると、先生はソファーに座り、丁度手にしていたスマホの電源を切ったところだった。 先生の手招き。 少し肌蹴たブラウスのまま、先生の膝の上にゆっくりと座る。 「…お手伝いしましょうか」 先生が静かに聞いた。 キャビネットの上の先ほど開かなかったワインボトルに手を伸ばす。。 「取りあえず、こちらのお手伝いからお願いします」 先生は、難なく蓋を開けた。 ワインのボトルに直接口を付けて、数口飲み、先生にボトルを向けた。 それを受け取ると、全て飲み干した。 「余り冷えてませんでしたね」 空になったボトルをキャビネットの上にそっと戻した。 「では…こちらのお手伝いもしましょうか?」 …早く私を脱がせたかったの? 期待と緊張が高まる。 先生が、耳元で優しく呟いたので静かに頷いた。 しなやかな指がブラウスの小さなボタンを外す。 先生の顔に触れてみると、とても熱い。 そっと先生の首に手を回し、頬にキスをして抱きついた。 ワイシャツからふわりと良い香りがした。 「…ボタンが外せませんよ。」 大きな腕に抱えられていると、甘えたい衝動がふつふつと湧いてくる。 …もっと私に触れて。 「ずっとこうして欲しかったから。」 私の顎をそっと上げ見つめた。 キスをせがんだけれど、優しく微笑みはぐらかされた。 「さぁ…シャワーを。もう随分前からお湯になっていると思いますよ。」 仕方なく先生の膝から立ち上がり、 ブラウスとスカートをゆっくりと脱いで見せた。 …私をよく見て。 ブラとショーツだけの姿となった。 先生の視線が、首筋、そして呼吸の度にゆっくりと上下する鎖骨、胸そして足へと流れるのを感じた。 …触れて欲しいの。 少し前屈みになりゆっくりと手を自分の背中に回す。 ブラのホックを外し、緩んだストラップは、肩から肘へと滑り落ちた。 先生はソファに座ったまま、そっと足を組み直した。 間接照明の薄明りは、解放された乳房を青白く浮かび上がらせ、 凹凸に添うようにくっきりと影を作った。 優しいため息。 レースのショーツを下ろすとヘアレスな部分は、 透明な液体で潤い細くきらりと糸を引いた。 「身体は正直ですね」 先生は近寄り、人差し指で期待で尖った乳首に触れる。 先生は細くしなやかな指で乳首を優しく弄んだ。 その手をゆっくりと乳房全体へと誘ったが、少し躊躇していた。 「冷たいですから」 頬に手を押し付け、それから私の首と肩でそっと挟んだ。 ひんやりとした手は私にされるがままになっていた。 温まった手は肩の峰からゆるりと鎖骨を泳いで愛撫に飢えた乳房に触れた。 喜びが背中から身体全体へと広がり、 敏感になった胸の先端は、より一層締まりピンとその存在を主張した。 大きな手で掴まれた乳房。 細くて長い指の間から乳首がこぼれ落ち、指の間で優しく何度も弄られた。 ソファから立ち上がり、ゆっくりと前に跪き私の腰に腕を絡ませ、硬く尖った乳首を暖かい舌全体で舐め、口に含んで優しく吸った。 繰り返されるその愛撫は皮膚の上を這い回り、 私をバターのようにとろけさせた。 「ああ…。」 吐息漏らすと、なお一層その唇は私を弄んだ。 先生は私を腕全体で強く抱きしめた。 「さあ…シャワーを浴びていらっしゃい」 私の首筋を強く唇で吸った。 「僕が待てなくなる前に…。」 耳元で蕩けそうになる甘い言葉をつづけた。 先生の視線を背中に感じながら、長い髪を頭の上で束ね、一糸纏わぬ姿でバスルームへと向かった。 シャワーの後、薄暗い応接室の大きな窓から夜景を眺めた。 革製の背もたれ椅子は、熱いシャワーの後の火照った身体に冷たく張り付き、気持ちが良かった。 広いデスクの上には ノートパソコンと書類、ファーバーのボールペンが綺麗に並べて置いてあった。艶のあった銀色だったペンが、プレゼントした時よりも、少しくすんでいてよく使われているのがわかった。 …それだけで嬉しい。 高層ビルの赤い航空灯が、気だるそうに見下ろし点滅していた。 大通りの信号機が人のいない横断歩道をせかしている。 まだ寂しい桜並木の脇に設置された照明が、寒そうに光っていた。 束ねた髪を降ろした。 毛束を指で摘まみ、そっと匂いをかいでみると、 朝のシャンプーの香りが残っていた。  寝室へと戻った。 ひとりでは大きすぎるベッドに体を滑りこませる。 緊張したフラットシーツは全裸の私をきっちりと包み込み、 柔らかで大きすぎる枕はひんやりとした。 体温がシーツにゆっくり溶けた頃、バスルームのドアが静かに開き、先生が出てきた。私は温まったベッドに、桃花色に肌が染まった先生を迎え入れた。 重みでベッドが深く沈み軋んだ。太い腕で強く抱きしめた先生の身体はとても熱く、肌からは同じ石鹸の香りがした。広い胸に耳を押し付けて、鼓動を聞いた。 「寒くないですか?」 熱い胸に顔を埋めたままで顔を横に振った。 私達は長い間、お互いの存在を確かめるように抱き合っていた。 密着した下腹部に、硬いもの存在を確認しながら…。 先生が身体に唇を這わせる。 耳、首筋、鎖骨 それだけでゾクゾクとした高まりを感じた。 同時に、先生の白い指先は、乳房の上で絵筆のように、軽やかに滑っていた・皮膚は粟立ち、産毛がベッド・ライトに照らされて金色に光る。 抱き起こし、私を向かい合わせに座らせた。 先生の引き締まった腰に、両足を絡める。 柔らかで温かい唇は何度も私を求め、その誘いに応じた。 そして私の唇は無意識に、その逞しい首筋から長い鎖骨へと降りていた。 右手で、蘇芳香色の艶々としたそれに優しく触れ、 掌の中でゆっくりと上下させると、手の中で、熱く硬く膨張した。 温かい指で包み込み、滑らかな先端とくびれを人差指と親指で愛撫した。 透明な粘液が、指の動きをよりスムーズにさせ快感の潤滑となった。 背中を這う指が少し緊張するのを感じた。 先生はとろけるような目で手元を眺めている。 それが嬉しい。目が合うたびに。口づけを交わす。 ベッドの端へと誘い、私は目が詰まった厚いカーペットの上に膝を立て座った。手で包むようにしながら、これから私を埋めてくれるであろう、愛すべきそれを口に含んだ。 歯がふれないように唇を窄め、ゆっくりと浅く、深く…を繰り返す。 硬く締まったそれにねっとりと舌を絡み付けた。 裏側のラインに沿って舌を這わせると,ピクピクとその度に拍動した。 唇と喉がたてる卑猥な音が静かな室内に響いた。 顔に流れ落ちてしまう長い髪を 先生はそのたびに右手で優しく掬い上げ、眺めていた。視線が私と重なるたびに、先生は大きな手で私の頬に触れた。 口元に微笑みを湛えていた先生が、時折、切なく眉間に皺を寄せた。 同時に快感を携えた大きなそれは、口の中で攣縮を起こしながら、 膨張と拍動を続けた。 その拍動に合わせ大きく口を開き、飲み込むように頭を上下させると、 喉のより深いところへと導き閉じ込めた。   それまで背中でゆったりと遊んでいた先生の手が離れたかと思うと、 私の手首を強く掴んだ。 その拍子に口から、ぴょこんと引き出されたそれは、 愛情と唾液で光沢も容積も増していた。 先生は床から掬い上げるように軽々と私を抱えあげた。 「ありがとう」 ベッドへふわりと私を寝かせ、顔に掛かった髪をそっと指で梳いた。 「次はあなた…です」 先生は柔和な微笑を浮かべた。 右手で私の乳房を包んだ。 硬くなった乳首を親指と人差し指で優しく摘み、くりくりと転がした。 先生の熱い息が首筋にかかる。 「何かリクエストはありますか」 耳元でそっと囁やかれると甘い刺激が増幅されて 体の隅々まで行き渡る気がした。 「いいえ」 人差指で乳首の先端をゆっくりと弄んだ。 その指は、快楽のある場所を隠してもすぐに見つけ出してしまう。 「私を…先生で…いっぱいにして欲しい…の」 皮膚に押し寄せる甘い波に、必死に抗った。 「僕の…可愛い人」 先生はその様子を眺めて楽しんでいた。この人の前で私の身体は、いとも簡単に快楽に支配され溶けだす。 …楽しんでいるのは私だけなのかも知れない。 そんな不安がふつふつと沸き起こり、甘い時間に水を差す。 「先生?」 そっと囁くと先生の左手は私の乳房から離れ、 その冷たい指は鎖骨の上をなぞるように、遊び始めた。 「はい」 キスの雨を降らせながら答えた。 「先生は満たされる…のでしょうか…」 私は言葉を濁した。 「どうしたんですか突然?」 先生は私の毛先を指に巻き付けながら聞いた。 「ただ何となく。聞いてみただけです」 先生の体温が私の背中に心地が良く伝わる。 「はい…いつも。楽しいですよ…あなたが心配する必要が無いくらいに。」 うなじに優しい線を引いた熱い唇が私の不安を宥めた。 「沢山愛されれば、私も…いつか…楽しめるくらいの余裕を持てるようになるんでしょうか?」 背中に当たる先生の胸が僅かに揺れ、笑っているのが判った。 愛しさがどうしようもなく込み上げて来て、先生の指に私の指を絡めた。 「ええ…その為には、いつも僕の傍に居て沢山愛し合わなければいけませんね。」 太い腕がぐいっと私を抱き寄せると、唾液で濡れた綿毛と硬いダクトがお尻に密着した。 それを擦りつける様に先生の腰が動き始めた。 そして私たちは長い夜の続きへと戻った。 「あなたの身体…とても繊細ですね。」 右手は、私の下半身のなだらかな肉丘の間へと忍び、 長い指先で蜜をたっぷりと含んだ花弁をタップすると, ぴちゃぴちゃと音を聞かせた。 「恥ずかしい …です。」 私を知り尽くした細い指が、 敏感な突起の上を小刻みに動き始め、 身体は、強く甘い刺激に反応した。 「あ…ん」 恥ずかしがっている余裕も与えてくれない。 「…独占欲に駆られてしまうんです。あなたを僕のものにしたいと…。」 冷たい右指は突起よりも奥の、たっぷりと蜜を湛えた中へと滑り込み、優しく強く擦りあげ繰り返し私に喜びを与えた。 「あぁ…駄目…そんなこと…された…ら…。」 私の腰が指の動きに合わせ、先生を求めてよじれた。 「可愛い人」 先生は熱い吐息交じりに囁くと、軽々とベッドから抱き上げ応接室へと連れて行った。 花曇りの夜空に淡い月が出ていた。 大きく開かれたカーテン、ガラス越しに映るふたりの姿。 窓辺の背もたれ椅子に座らせ、足をM字状に開かせた。 月光のもとに、淫奔な秘部を晒した。 「とても官能的で綺麗です」 透明な愛液に塗れた花弁の中の突起を舌の先で何度も愛した。 そして人差指と中指を上壁に沿って静かに沈めた。 「ふぅ…。」 思わず声が漏れる。 指は優しい愛撫から、前後に動きに変化した。 指がぬかるみの中を出入りするたびに、くちゅくちゅという卑猥な音を奏でた。膣は少しずつ攣縮を強め、両膝は無意識のうちに先生の太い腕を挟みこんだ。 「あなたがどんなに感じているか、僕の指に伝わってきますよ。」 「あぁ…駄目…そんな…。」 私の手は縋るものを探して先生の肩を掴んだ。 「もう少しだけ…恍惚としたその顔を見させて下さい。」 …快感が身体に蓄積していく。 「そんなに強く締め付けたら、動かせませんよ」 血流は、うねる様に下半身の一点に集中した。 「うぅ…せんせ…愛して…る」 理性は逸楽に塗りつぶされ、 愛欲のみを最優先させるように上書き矯正される。 「僕も…あなたを愛してます」 先生の唇を貪るように激しく求めた。 …先生が欲しい…今すぐ欲しい。 全ての感覚器が、さざめき毛羽立ち先生に訴えかけた。 私を再び抱き上げて、大きなデスクの端に座らせた。 優しく太ももの手触りを確かめるように何度も撫でた。 暗闇に浮かび上がった白い足を、先生の前でそっと開く。 「…ほら…こんなに欲しがってる」 …淫らな私を見て。 先生は、熱く荒々しい口づけをしながら、花弁を指でなぞり、くちゅりと開いた。そして血管が浮き出て反り返った先を当てがい、満たすべき入り口を見つけた。 花弁に愛液を塗りたくる様に蜜壺の周囲をくるくると這わせた。 焦らされ滑りの良くなった、ほんの先端を差し込むが、それは私を満たしてはくれない。 …はぁ…はぁ。 「じらさないで…せんせ…欲しいの。」 呼吸が荒くなるのを感じ、 私の腰が淫らに動き始めたのを眺めながら微笑んだ。 「挿れて…挿れて下さい。」 細胞のひとつひとつが、快楽を求め暴走し始める。 先生は、欲望に満ち満ちた瞳で私をじっと見据え、 興奮し荒ぶったひとりの男性となった。 「そんな風にお願いされたら…僕は…。」 先生の息が深く大きくなっていた。 「あなたの中に…。」 頷くとそれはすぐに侵入を始め、音をたてながら私を埋めていく。 「ああ…。」 唇で塞がれたふたりの口からため息ともつかぬ声が漏れた 。蜜壺の中にぐちゅぐちゅと深く入り、貫き、膣が歓喜の収縮を繰り返す。 「ああん…せんせ…感じる…の」 「そんなに締め付けたら、あぁ…くっ…。」 亀頭がゆっくりと出たり入ったりするたびに、 ぬかるんだ音が増していく。 ーーー ぶちゅ…ぐちゅ…ぐちゃ。 そして膣は、もっと欲しがり奥へと誘導しようと容赦なく締め上げた。 先生は私の臀部を両手で抱えて深く差し込んだまま、腰を大きくグラインドさせる。先生がこりこりと深底をかき回す。 「うぅ…あぁぁ…。」 …ひとつの快感も逃したくないの。 「奥を突く度に…あなたが締め付けて…ぁ…今にも零してしまいそうです。」 私は上半身を起こし、先生の腰に手を回した。デスクは小刻みに揺れ、テーブルの上の書類がはらはらと床に落ちた。 先生の身体に汗が光った。暗闇の中で激しく絡み合うふたつの身体。 「…あなたに溶けてしまいたい」 「僕も…です」 「…ここで仕事をするたびに、私を想いだして」 先生の顔から笑顔が消えて久しい。膣がヒクヒクと短い間隔で収縮を繰り返し、収縮の波が高く強く、そして長くなるにつれて、その波同士は重なり、オーバーラップし、より大きな強い収縮となった。 「僕はあなたをいつも想っていますよ…。」 その熱くて強い収縮は、私から体を支える力を徐々に奪い始めた。私が首に腕を回すと、先生は私の臀部と大腿部を抱え立ち上がり、そのまま私を貫き続けた。 「セン…セ。強く…強く激しく…貫いて。」 …まだ駄目…ああ…感じる。 「ああ…。気持ちが良いです。」 先生の声も震えて、吐息に阻まれた。まるで、プログラムされたかのように正確に腰は激しく、私の快感のスイッチを次々にオンにしていく。 …セン…セ…お願い…先生と…一緒が良い。 「あなたを最後まで見守りますから…もう我慢しないで…。」 …ひとりで…いきたくないの。 「うぅん…あぁ…凄い…。」 快感のノイズが入り込んだ脳は、言葉を喘ぎ声に強制的に自動変換した。 甘い淫靡なメロディが口から零れ始めた。こらえるようと私は唇をかんだ。しかし、喘ぎ声を抑えることを快感漬けにされた私の脳は許さなかった。 「あぁ…せんせ…感じる…ああ…。」 嬌声は先生の腰の動きに合わせ、益々部屋に響いた。 「うっ…くっ…はぁ…あなたが僕を…捉えて離さな…い」 先生が甘い声で喘ぎだすと、私の蜜が溢れ出した。 「せんせ…? 感じてる…の?」 お互いを求めあい、貪った。 「はぁ…と…ても」 「もう…我慢しないで…。」 先生の熱い喘ぎ声が、耳にねっとりと絡みつく。 「セン…セ……あぁぁ。」 甘い刺激が私の耐性閾値をはるかに上回った瞬間から、全身の毛穴から一気に快感が溢れ出した。 同時に膣の強く長い収縮と拍動の波が私をさらって、一気に絶頂へと身体を押し上げた。 先生は私を強く長く抱き締め続けた。 「この一瞬のあなたの顔。ああ…僕は何度でも、いつまでも見ていたい…。」 抜け殻の私はベッドへと運ばれ、絶頂から戻って来るまでの間、先生に静かに守られた。 顔に汗で張り付いた髪を手でそっと整え、冷えた体をブランケットで優しく包んだ。先生はその冷たい指で私の紅潮した頬や、唇に触れ続けた。 そのまま深い眠りの淵へと誘われた。 目が覚め、時計を見ると2時を回っていた。 シャワーの音が聞こえた。 …また先生を置き去りにしてしまった。 甘い脱力感に包まれた体をベットから起こし、サイドテーブルに置かれていたミネラルウォーターを一気に飲み、バスルームへと向かう。 身体から汗とセックスの匂いがした。 …この香りを毎晩纏えたら幸せなのに。 鏡には、つい先ほどまで激しく愛されていた私の身体が映っていた。 ノックをしてバスルームのドアを開けた。 「大丈夫ですか?」 振り返った先生の身体には石鹸が付いていた。 ドアを閉め、何も言わずに先生の背中に頭をつけた。 「いけません。体がこんなに冷えてしまって…。」 先生は私の体にシャワーをそっと当てた。 暫く熱いシャワーを浴びていた。愛されあとの気だるさが節々に残り、 シャワーが乳首に当たると、敏感に反応してしまう。 愛の痕跡を全て流していく。 …先生は 満たされずに 悶々としているのだろうか。 それでも先生は決してそんなそぶりは見せないで、私が眠いと言えば朝まで寝かせてくれるだろう。 大きなタオルを体に巻き付けてシャワールームを出た。 先生は、先ほど愛し合ったばかりの応接室のデスクで ノートパソコンを開いていた。暗がりで先生の逞しい胸板が照らされていた。 そんな姿を暫く眺めていた。 先生の身体は、適度に筋肉がつき、 肩幅が広く姿勢が良いので、年齢よりも10歳以上若く見える。 短く切られた髪の毛は黒く、こめかみにグレーがほんの少し混じる。 眼は切れ長ではっきりしており、 睫毛がビューラーで巻いたように長く、その綺麗な形を縁取っている。 先生が応接室のドアの前に立った私に気が付いた。 「もうすぐ終わりますけど、先に寝ててください」 モニターから目を離さず私に言った。 「それから、明日は人と約束があるので、僕は10時には出ますが、あなたはゆっくりしててください」 先生がちらりと私を見たので、巻いていたタオルをするすると解いた。 「パジャマ忘れちゃって…ひとりじゃ寒くて寝られないから、早く温めて?」 先生はモニターを見ながら笑った。 「あと5分で終わりますから…。」 …パジャマなんて、今までに一度も持ってきたことは無いのだけど。 隣に大きな体を潜り込ませ、密着させた。先生の身体の方が少し冷たかった。 「では…温めあいましょう。」 私は先生の胸に唇を這わせた。 「僕のことを気にしているのなら大丈夫ですよ?」 先生は私の髪の毛に触れながら、あなたの髪が好きですと笑った。 「でも…。」 君は疲れているでしょうからと、ベッドライトにそっと手を伸ばし、明りを消した。そして、おやすみなさいと私の頭にキスをした。 シーンという静まりかえった部屋…遠くで救急車の音が聞こえる。 …でもやっぱり 「先生…」 … 「もう寝ちゃった?」 … 「いえ…。」 温かい空気がブランケットの中で動いた。 「しましょうか?」 … 「私とお口…どちらでもお好きな方で。」 先生は笑いながら私を抱き寄せて、暫く考えた後 「では…お言葉に甘えて…。」 先生はきつく抱きしめた。 「両方で…お願いします。そんなに長くはかからないと思いますから。」 先生は囁き、私はくすくすと笑った。 「長くなくても…あなたを今は沢山愛したいの。」 お互いを求め、ブランケットの中で再び絡み合った。 時計を見ると12時半を回っていた。 身体を起こすと、全身の筋肉が軋んだ。 サイド・テーブルの上には、 先生からのメモとクレジットカード、ルームキーが残されていた。 〈必要なものがあれば使って下さい。今夜のレセプションは、夜8時からです。ドレスではなくシンプルスーツでOkです。〉 …そうだった。 まだ時間はあるけれど、一度自分のマンションに帰り少し休みたい。 裸のままゆっくりと鏡の前で身体を観察する。 首筋に小さなキスマーク。 そっと指で触れてみると、 肌にはまだ先生の温かい身体の感触が残っているような気がした。 ソファーに掛けられたままのブラを手に取り、収めた私の胸は、少し腫れぼったかった。昼間の光にはそぐわない身体のラインが強調されるブラウスは、苺色の肌の染みを先生に愛された証拠をギリギリのところで隠した。 それを見るたびに艶めかしい夜に引き戻され、自然に笑みが溢れてしまう。 …きっと先生はそれを知っていてわざとつけたのね。 手早く化粧をすると私はホテルを出た。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加