エピローグ

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エピローグ

 事件後、浩は業績悪化と健康上の理由で久保コーポレーションの社長を退任したが、誰の目にも例のスキャンダルと事件が尾を引いているのは明らかだった。後任には、かねてから浩の反対派閥にいた役員が就任した。  空いた専務の席には亜美の又従兄の井上晃が就いたが、彼が次期社長になるかどうかは先行き不明である。晃は亜美にプロポーズしてきたが、亜美は『離婚していない』と言って断った。でも亜美は、離婚したとしても、晃の求婚に応えるつもりはない。  俊介は、退院後すぐに久保コーポレーションを辞め、1級建築士の資格を活かしてとある建築士事務所に就職した。将来的には独立も目指している。  亜美と俊介はまだ離婚していないが、事件以来、別居している。亜美は俊介と浩の入院中から実家を出て部屋を借り、今は求職中である。  色々あったので、2人とも久保家にまだ荷物が残っており、離婚話も進めるためにかつての自分達の家で会うことになった。俊介が病院で意識を取り戻して以来、亜美がまともに彼と話すのはこれが初めてだ。 「久しぶりね。何か言うことある?」 「ああ……亜美、すまなかった!」  俊介はいきなり土下座した。 「愛してるって言ったのも、私を抱いたのも、全部嘘からの気持ちだったの?!」 「さ、最初は……確かに……君を復讐に利用してやろうって思っていた。でもだんだん君のことが好きになっていって……もう復讐なんてやめようって思った。だけど美沙がスキャンダルをマスコミに売ってしまって、もう取り返しがつかない所までいってしまった。本当にすまない! 許してくれとは言えないが、僕が君を愛しているのは信じてくれ」 「子供が欲しい、不妊検査しようって私が言ってたのも、ざまぁみろって蔭で思ってたの?」 「そんなこと思ってない! 申し訳なかった! 馬鹿なことしたって思う。今となっては君との子供が本当に欲しいよ」 「本当に今でもそう思う?」 「ああ。君は僕との子供なんていやだろうけど……」 「いやじゃないって言ったら?」 「え? もう1度言ってくれ!」 「言わない。本当の気持ちを言うのは、今日は俊のほうじゃなきゃ駄目。離婚したい?」 「したくない」 「私のこと、愛してる?」 「愛してる!」 「私との間に子供欲しい?」 「欲しい……できるなら、だけど――わっ! 亜美! 危ない!」  土下座した後に床に座ったままの俊介に亜美が飛びついた。 「私も俊を愛してる。離婚したくない。俊との子供も欲しい!」 「じゃあ、今日からまた一緒に住もう!」 「それじゃ、これに署名して」 「え?! 離婚しないんじゃないの?!」  亜美が目の前に差し出した離婚届の証人欄には、既に浩と詩織の署名がしてあった。 「一旦離婚してリセットしよう。俊が復讐のためにした結婚はここで終わりにしたいの」 「だからそれは僕の過ちで……」 「うん、分かってる。でも恋人から一から始めたい」  それからすぐに2人は離婚したが、恋人関係になって別居を続け、2年後に再婚した。俊介は離婚後すぐにパイプカット再建手術を受けたが、パイプカット手術を受けたのが大分前だったこともあり、再婚後も子供は授かっていない。でも亜美は、正直な気持ちで改めて始めた2度目の結婚生活に満足している。
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