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「あの人を辞めさせてよ。もう子供だって大人でしょ? すぐに次の仕事が見つからなくたって何とかなるはずだし、どうせお父さんが次の仕事を紹介するでしょ?」
「お前が結婚して新居に移ったら、敦子さんがうちで家事をしても問題ないだろう?」
「私、結婚したらここで同居して会社辞めるわ。そしたら家政婦なんていらないでしょ?」
「そんなの、新婚で佐藤君が気の毒だろう?」
「どうせ入り婿なんだから、同居が早まるだけよ。二世帯住宅のお祖父ちゃん達が使っていた所に私達が住めば、玄関も水回りも別だから、同居でも俊介さんも気づまりにならないと思う」
「でもお前が満足に家事をできるか?」
「仕事辞めれば時間あるし、今は便利な家電だってあるんだから、大丈夫に決まってるでしょ!」
亜美はぐっと言葉に詰まってしまった。彼女は金持ちの箱入り娘で満足に家事などしたことがない。浩と敦子の関係を知ってしまった後、亜美は敦子に家事をやってもらうのをボイコットしたが、その頃は祖父母が生きており、何の不便もなかった。彼らが雇っていた別の家政婦についでに亜美の分もやってもらい、祖父母世帯に亜美の部屋まで作ってもらってそこで寝泊りしていた。だが亜美が高校生から大学生の時にかけて相次いで祖父母が他界し、浩は亜美の反発を無視して祖父母の家政婦を解雇して敦子だけを残した。
当初、亜美はかつての祖父母世帯に住み続けながら自分だけでやろうとしたが、すぐに限界が来て掃除も洗濯も亜美が学校に行っている間に敦子にやってもらうことで妥協した。食事だけは、未だにあの時の父と敦子の衝撃的な場面が脳裏に浮かんできて生理的にどうしても受け付けられず、詩織と外食か、詩織と会えない時はテイクアウトして食べていた。
家事の質を問われると、亜美の分は悪い。そうなると、亜美が父の浩に対抗できる言い分はただひとつだ。
「お父さんと爛れた関係の家政婦がいない方が、お婿さんに来てくれる俊介さんも心地いいはずよ」
「た、爛れたなんて、敦子さんとはそんな関係じゃない、別れているんだ。仮に付き合っているとしても、今はもう2人とも独身なんだ、何の問題もないだろう?」
「ほら! やっぱり付き合っているんだ! 別れたなんて大嘘つき! 病気のお母さんが家にいなかったのをいいことに家で家政婦とセックスしていたのが爛れてないの?! 汚らわしい!」
浩はぐっと言葉に詰まったが、正直言って、亜美は執念深過ぎると思っている。あの場面を見られたのはもう15年も前の話で今は浩も独身なんだから、仮に敦子と付き合っていたとしても責められる謂れはないだろう。彼女と性交したのは、亜美に見られた時が最後で、亜美は疑っているが、本当に別れたのだ。その後も2人とも未練が残っていて人目を盗んでキスぐらいはしてしまったが、お互い理性で抑えてそれ以上のことはなかった。
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