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5.父の過去*
浩が敦子の解雇に躊躇したのを亜美は感じ取り、敦子が辞めないのなら結婚しないと言い出した。
「いいよ、お父さんがあの人を辞めさせないんだったら、私は結婚しない」
「何言ってるんだ?! お前だって佐藤君を愛しているんだろう? そんな駆け引きに自分の結婚を使ったら、後悔するぞ」
「よく言うよ。元々、俊介さんを自分の子飼いにしようと思って私に紹介した癖に」
「うん、まあ、それはそうだが……お前はそれでも佐藤君を気に入ったんじゃないか。プロポーズにも応えるって伝えたんだろう? なのに今更結婚をやめるってどうやって彼に説明するんだ?」
「お父さんの愛人が離れに住んでいるような家には、恥ずかしくてお婿さんとして迎えられないって言うわよ」
久保家の家政婦達は、朝食の準備から始まって夕食の片づけまでしており、昼食の片づけ後から夕食準備までの2、3時間の休憩を挟むものの、長時間拘束されていた。しかも買い物があればあっという間にその休憩時間が短くなる。それは、彼女達が独身で久保家の敷地内の離れに住んでいたからこそ可能であった。敦子も、自身の子供と亜美の祖父母の家政婦とともに3人でそこに住んでいたが、祖父母の死後に彼らの家政婦が辞めさせられた後も子供が独立した後も離れに住み続けていた。それも別れたという父の主張を亜美が信じられなかった理由の1つだった。
関係露見後も、娘に内緒で敦子とキスを何度かしてしまったとはいえ、浩は敦子との肉体関係はきっぱり清算した。なのに娘に噂を広めると脅され、浩はかっときた。
「そんなことを言って俺の社内での信用を地に落とすのか?! やめなさい!」
「恫喝したって無駄よ。当時だってスキャンダルになりかけたんだから、いくらあの時もみ消したって言っても、今も覚えてる人だっているはずよ」
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