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7.憂鬱になった親友との逢瀬
亜美は定時退勤で俊介は遅くまで残業だから、平日夜にデートは滅多にできない。その空いた時間に亜美は親友の中原詩織に会う。以前はアフターファイブも週末も詩織としょっちゅう会っていたのだが、亜美は俊介と婚約してから様変わりした。平日夜に詩織と会ったとしても、亜美は俊介と毎日電話したいから、前みたいに詩織と長々と会うことはない。以前は、2人とも親からの結婚圧力を嘆いていたのに、亜美の変節に詩織は嘆いている。
その日、亜美は久しぶりに退勤後に詩織と会う約束をしており、待ち合わせ場所のいつもの大衆居酒屋へ急いだ。
案内された個室に亜美が入ると、詩織は既に待っていて頬を膨らませて文句を言った。
「しおりん! 遅くなってごめん!」
「あみりん、遅いよ! またお局に何か用事言いつけられたの? それともあの胡散臭いイケメンと会ってた?」
詩織は、自分達と2歳しか違わない亜美の会社の先輩美沙を勝手にお局扱いしている。美沙に敵視されている亜美はそれに関して異論ないが、俊介を『胡散臭い』とか言ってけなすのには閉口している。
ふわふわ天然パーマのロングヘアでバチバチまつ毛のかわいい詩織の童顔の破壊力はすごくて、昔は詩織がふくれっ面になると亜美はすぐに折れて仲直りした。でも俊介と婚約してから、亜美と詩織の関係は変わった。詩織は何かにつけて俊介と別れた方がいいって言ってきて喧嘩になるし、俊介には詩織を1度会わせただけなのに彼女との友達付き合いは考え直した方がいいと言われてしまった。
とりあえず注文した枝豆を摘まみながら、亜美はまたかとうんざりした。愛する人を悪く言われるのは、精神をガリガリ削られる。以前は楽しかった詩織との時間が不快な気持ちに塗りつぶされていく。
「ねえ、どうして俊介さんのこと、そんなに敵視するの?」
「じゃあ、お局先輩は敵視してもいいんだ」
「私は別に敵視してないのに、あっちのほうが私を敵視してるんだよ。それより詩織が私の大切な人を理解してくれないのが悲しい」
「亜美と私は小学校からの親友なんだよ。佐藤さんよりずっと前から亜美と仲良くしてきたのに、亜美は私のことは大事じゃないの?!」
また始まったかと亜美はため息をついた。最近、詩織と会ってもすぐに俊介のことで口論になってしまう。
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