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「話をすり替えないで。詩織だって大切な親友だよ。その親友に結婚相手を嫌われるのは辛い」
「結婚相手?! 見合いからまだ3ヶ月しか経ってないじゃない!」
「一緒に過ごした時間の長さは関係なく、私達は愛し合ってるの。婚約指輪ももらって今は、式場探しで忙しいの」
「ちょっと待って! 式場探すの待ったほうがいいよ」
「どうして?! 根拠ないこと、言わないでよ!」
「私だって佐藤さんのこと、根拠なく『胡散臭い』って言ってるわけじゃないんだよ。あのさ……この間の金曜って佐藤さん、大阪に行っていた?」
「うん、俊介さんは出張で遅くなるから金曜日は大阪で泊まるって言ってた」
「私、佐藤さんを偶然大阪で見たんだけどね、女性と一緒だったの」
「出張なんだから、仕事相手でしょう?」
「それがね……ラブホテルから同じぐらいの年齢の女と出てきたのを見たの!」
「しょ、証拠は?! 見間違いじゃないの?!」
「証拠は私の目。写真は暗いし、スマホじゃ遠過ぎて撮れなかった」
「絶対見間違いだよ。金曜夜、大阪のホテルにいる俊介さんとメッセージアプリでビデオ通話したけど、普通のホテルだったし、変な様子はなかった!」
「部屋の中だけなら、普通のホテルっぽいラブホテルもあるんじゃないの?」
「絶対違う! 詩織が目撃したのって何時頃?」
「7時過ぎだったかな?」
亜美が俊介とビデオ通話したのはもっと遅い時間だった。でも亜美は、詩織の前でメッセージアプリを確認する気はなかった。ビデオ通話が俊介と女性の密会がなかったアリバイにならないのを詩織に何だか知られたくなかった。
その時、店員が『失礼します』と言って入ってきて注文した料理を持って来た。亜美と詩織は、その後は言葉を交わすことも少なく、黙々と食べて解散した。
亜美は次に俊介と会った時、大阪出張の金曜日の夜7時頃に何をしていたか、彼に問いただそうと思ったが、彼の優しい微笑みを見てその誠実さを実感すると、疑惑は霧消していった。そうして俊介の浮気疑惑は本人も自覚しないまま、亜美の心の奥底に眠り続けた。
それから半年後、亜美は俊介と結婚し、詩織も結婚式に出席してくれた。でも不倫している夫と離婚した方がいいと詩織がしつこく言い続けるので、結婚から2年後にとうとう亜美は彼女と絶交してしまった。
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