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8.壊滅的な家事能力
亜美は俊介と結婚後、予定通り寿退社して専業主婦になった。亜美は俊介のことを『俊』と呼ぶようになり、仲睦まじい新婚夫婦となった。
父の浩は約束通り、二世帯住宅のかつての両親――亜美の祖父母――の住居部分を改築して新築同様にしてくれた。家政婦敦子も今はいない。浩は敦子をどこか別の勤務場所に移動させたんだろうと亜美には半ば分かっていたが、彼女が亜美の目の前で働いていなければいい。
結婚後、浩との約束通りに仕事を辞めた亜美が敦子の代わりに家事をしているが、思った通りにいかなかった。でも亜美は、新しい家政婦を雇う気になれなかった。雇ったとしても、その人に慣れるまでは在宅中に気が休まらないし、外出している間に済ませてもらうにしても、どんな人か分かるまでは信用できない。亜美は敦子に嫌悪感を持ってはいたが、彼女は長期にわたって久保家で働いていたし、祖父母の家政婦も長年働いていて亜美は信頼していた。
それに彼女達は独身で敷地内の離れに住んでおり、昼食の片づけ後から夕食準備までの休憩を挟んだ長時間の拘束時間にも対応してくれた。新しい家政婦はさすがにそんなわけにいかないだろうから、朝食から夕食の片づけまで2交代制にしなければならないだろう。でも2人も一気に新しい人に来てもらうのは、亜美にとって慣れるまで気が重い。祖父母の家政婦が若かったらまた働いてもらうこともできたが、残念ながら浩に辞めさせられた時点で既に高齢だった。
亜美達の結婚後、朝食は父世帯で3人一緒に食べることになっていた。要領のよくない亜美には、時間のない朝に自分達用と父用に別々に素早く作れないからだ。だが、ほとんど焦がすか、茹で過ぎか、逆に火が通ってなくて生か、まともに食べられた試しがなく、結婚3ヶ月経った今、浩はほとんど毎朝、約束が違うと亜美に怒っていた。
同居開始翌日には、亜美が朝食としてトーストとコーヒーだけを出したら、浩に朝食は和食にしていると怒られた。亜美は浩と敦子の情事を見てしまった日から浩と食事をとらなくなったので、父親の食習慣をすっかり忘れていた。
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