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翌日、亜美はご飯だけ炊いてインスタント味噌汁を出し、また浩の怒りを買った。
「はい、朝食。ご飯はちゃんと炊けたよ。味見したけど、生じゃなかった。すごいでしょ? 味噌汁はインスタントだから、お椀にお湯を入れて」
「おい、どういうことだ! こんなの朝食を作ったって言えないだろうが!」
「そんなに文句言うなら、自分で作れば?」
「冗談じゃない、俺は自分で作る代わりに敦子さんを雇っていたんだ。だけどお前が家事をやるから敦子さんに辞めてもらいたいって言うから、そうしたのに約束が違う!」
「辞めてもらったって……よく言うよね。どうせどこかで囲っているんでしょ?」
「おい! 人聞きの悪いことを言うんじゃない! ましてや佐藤……いや、俊介の前だぞ!」
亜美と浩の口論に気まずそうにしていた俊介は、自分の名前を聞いておずおずと口を開いた。
「あの、お義父さん……これ、いただきましょう。お湯入れますね」
「あ、ああ……」
「亜美も初めてでまだ上手くできませんけど、長い目で見てやってください」
「そ、そんなこと、父親の俺のほうがよく分かってる!」
「亜美、ありがとう。いただきます」
亜美は俊介の優しさに救われた気持ちになった。その一方で浩は、つい最近、家族になっただけの俊介のほうが亜美をよく理解していると言われたように感じて面白くなかった。
亜美は、そのうちに味噌汁を作れるようになったのだが、煮詰まってしまったり、逆に薄過ぎたり、しょっちゅう失敗していた。朝食のおかずも簡単な目玉焼きならできると亜美は思っていたのだが、それすら難関で、アイランドキッチンのあるリビングルームにモクモクと煙を充満させ、火災報知器を作動させてしまったことすらあった。
その日の朝もリビングルームが煙っぽくなり、俊介がすかさず窓を開けた。亜美がベーコンエッグの黄身が固まるまでフライパンで焼いていたら、ベーコンが真っ黒になってしまったのだ。その間に作っていた味噌汁も煮詰まってしまって豆腐にボコボコと穴が開いてしまっている。
「おい、亜美! また焦がしてるぞ!」
「わーっ、もう焦げてる!」
「もういい! 迎えが来るから行くぞ! 俊介、お前も来い」
「はい、すぐに行きます」
俊介は、玄関に行く前にキッチンでしょげかえっている亜美の所へ行って慰めた。
「俊、ごめんなさい。また失敗しちゃった……」
「気にしないで。頑張ってくれてるんだから。愛してるよ」
俊介は、しょげかえっている亜美の唇にチュッと軽いキスをし、浩と共に車で出勤していった。
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