8.壊滅的な家事能力

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 亜美は、焦げたフライパンと煮詰まった味噌汁を見てため息をついた。結婚してから、料理教室にいくつかお試しで行ってみたが、材料を切るのに時間がかかり過ぎたり、野菜の皮を剥いたら残りがほとんどなくなってしまったり、鍋やフライパンを焦がしたりして他の参加者の白い目が痛かった。それに亜美の調理後のキッチンがいつもグチャグチャになって主催者側に遠回しに正式入会を断られたこともあり、料理の才能がほとほとないのだと痛感して、亜美は料理教室参加を断念した。  亜美が苦手なのは料理だけではない。元々、整理整頓も苦手だった亜美は、掃除もおざなりになってしまっている。お掃除ロボが掃除できない場所には埃が溜まり、風呂には水垢がこびりついてタイルの目地に黴が生えてきてしまった。便器にも洗浄剤の青い筋と水垢がこびりつき、洗濯して乾燥機から出した洗濯物は皺くちゃのまま、リビングルームのソファとテーブルに積み上がっている。両世帯ともそんな状態だ。それでも俊介は何も言わないが、浩の堪忍袋の緒はとうとう切れた。 「亜美、これはなんだ! お前が家事をやるっていうから、敦子さんにここを辞めてもらったのに!」 「だ、だってしょうがないでしょ! 今までやったことがなかったんだから! うちだって似たような状態だけど、俊(しゅん)は文句言わないよ」 「彼の優しさに胡坐かいていると、他の女に(なび)いても知らないぞ。あれだけいい男で稼いでいるんだ」 「何言ってるの! 俊はお父さんと違う! 浮気なんてしない! それに俊は婿なんだから、浮気するわけないでしょ」 「そんなこと言って油断していると、知らないぞ」 「経験者は語る、だよねぇ」  亜美がおちょくるように父親の浮気をからかうと、浩は真っ赤になって怒った。 「もういい! お前は信用しない! 敦子さんに戻ってきてもらう!」 「駄目よ! あの人だって今の仕事があるでしょ?」 「そんなのはお前に心配してもらわなくたっていい!」 「やっぱりお父さんが囲い続けてたんだ! 汚い!」 「か、囲ってるって、何言ってるんだ! そんなわけないだろ! 汚いのはうちの今の状態のほうだぞ!」  それから数日後、敦子の姿が再び久保家にあった。彼女がせっせと掃除した父世帯は、積み重なった汚れがまだ少し残ってはいたものの、往時の清潔さを取り戻した。食事作りも彼女の担当になり、浩の癇癪(かんしゃく)は収まったが、亜美は憤懣(ふんまん)やるかたなく、亜美と俊介が父世帯で浩と食事を共にすることはなくなった。 ------ 本話は、スター特典第2話「迷い」へ続きます。ヒーローがヒロイン以外と関係を持つ性描写があります: https://estar.jp/novels/26265140/viewer?page=6
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