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10.疑惑
亜美は寿退社して専業主婦をしているが、去年から平日昼間、家政婦が通いで来ている。結局、亜美のあまりの家事能力のなさにそうすることになり、試しで来てもらった女性と割と気が合ったので、その人に決めた。彼女は俊介の出勤後に来て朝食の後片付け、掃除、昼食と夕食の準備までしてくれるので、亜美は夕食のおかずを電子レンジでチンするだけか、鍋でもう1度温めるだけでよい。
家事の悩みは解消したのだが、最近、平日昼時になると、亜美はビクビクしている。家電話に無言電話が来るのだ。家政婦もいつも決まった時間に来る電話を訝しんでいるだろう。だから亜美は昼に電話線を引っこ抜いたのだが、そうすると知らないアカウントからスマホに色々な罵倒メッセージが来る。仕方ないので、しばらくの間、電話線は引っこ抜かず、ミュートにしてから応答ボタンを押していた。すると、反応がないのがつまらないのか、また得体の知れないアカウントからメッセージが来るのだ。ブロックしてもまた別のアカウントから来てきりがない。
とうとう亜美は、俊介に相談した。俊介は一瞬言葉に詰まった。
「僕に任せてくれないか?」
「任せろってどうするの?」
「伝手があるから、犯人を調べてみるよ」
「伝手って興信所? それならお父さんがいつも使う所があるから、そこにしようか?」
「いいよ、お義父さんに知られたら心配かけるだろう?」
「え、でもそこは私も知ってるから、私から連絡すればお父さんには内緒にしてくれるはずよ」
「僕の伝手が信じられないって言うの?!」
「えっ?! そ、そんなことないよ」
普段、温厚な俊介が食って掛かってきて亜美は驚いた。だが亜美がびくついたのを見て俊介はすぐに謝って亜美を抱きしめた。
「ごめん……僕が信用してる奴だからさ、ついかっとなっちゃったよ」
「うん……そんなに信用してる友達なら、今度私にも紹介してね」
「あ、う、うん……」
それ以降、無言電話はぴたっとなくなったが、その『信用してる奴』を俊介が亜美に紹介することはなかった。
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