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2.初デートは失敗?
亜美と俊介の初めてのデートの目的地は、現代美術館となった。デートの約束をした時、何が好きなのか、何をしたいか、どこに行きたいかなどと俊介は亜美に色々聞いてきたが、亜美は何も思いつかなかった。だから『俊介さんにお任せします』と言ったのだが、デートでそれを後悔することになるとはその時は思いもしなかった。
当日、2人は美術館入口で待ち合わせした。俊介は、違和感なくスマートに亜美の分もチケットを買ってくれた。常設展の前に見始めた特別展で、俊介はある作家の作品の前に足を止めてその作品や作家の作風を小声で語り始めた。その熱の込めように亜美は戸惑い、ほとんど相槌を打てなかった。
「……この抽象画は、とある歴史的な写真が元になってるんです。それがこの写真です」
「ああ、そうなんですか……言われないと分からないですね……」
亜美は、絵の横に展示された写真の複製と絵を見比べた。絵には、群青色を基調として縦横無尽に様々な色がざっと上塗りされていた。彼女の目には絵と写真の関連性が全く分からなかった。
そんな調子で興奮して色々俊介は解説してくれたが、亜美は相変わらずさっぱり理解できなかった。それが精神的にもきついのに、今日は見栄を張っておろしたての可愛いパンプスを履いて来てしまい、亜美は足が痛くて堪らなくなってとうとう勇気を出して俊介に打ち明けた。
「あ、あの……お話の途中で申し訳ないんですけど、足が痛くてもう限界で……この美術館にはカフェがありますよね? 少し休憩しませんか?」
「あー……すみません……現代アートを見始めるとつい止まらなくなってしまって……お任せと言われて思いついたのがこれだったんですけど……失敗ですね……」
「いえ、私のほうが行く場所はお任せってお願いしたんです。それに美術館で立ったまま色々展示を見るのに、新しいパンプスを履いてきちゃったのがいけないんです」
「いえ、気が利かなくて本当にすみません……」
俊介は目に見えてしょげかえっており、亜美は彼を責めてしまったようでなんだか決まりが悪い。
「え? 佐藤さん、どうしました?」
突然、俊介がしゃがみこんだので、亜美は驚いた。
「おぶって行きますから、背中に乗って下さい」
「え、え、ちょ、ちょっと! 他の人の目の前でそんな恥ずかしいこと、できませんよ」
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