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プロローグ
メッセージアプリの着信を知らせる音が響いた。久保亜美は夫俊介からかと思って急いで確認したが、見知らぬ人間からのメッセージのようだ。既読を付けたくないので、通知を長押ししてメッセージを表示させた。
普段なら無視してブロックする一択だ。でもここ最近、家電に無言電話が入ったり、夫の浮気を示唆する差出人不明の怪文書がポストに入ったりしていて、このメッセージも何かそれに関係ありそうな気がした。
入り婿の俊介は同居の父の浩に職場と家の両方で気を遣うだろうに、結婚して2年経っても相変わらず亜美にベタ惚れの様子で優しく、週に2、3回夫婦生活もある。だから亜美は俊介を疑いたくないし、疑う必要はないと思っている――というか、思いたい。でも怪文書の言う通りに俊介は行動し、亜美には嘘をついていた。
メッセージは、絶交してブロックしたはずの同い年の元親友中原詩織が別のアカウントから送って来たものだった。詩織は以前、亜美のほとんど唯一の友ともいえる存在だった。だが亜美の結婚後、俊介と離婚しろと詩織がしつこく言ってきて大喧嘩の末に絶交したのだ。
『久しぶり、詩織よ。元気にしてる? これから送る写真を見て。俊介さんと離婚する気になるはずよ』
『写真を送信しました』という通知も来ていた。長押しして見てみると、俊介と見知らぬ女性がそれぞれ1人で同じラブホテルから出てきた写真を2枚並べて撮った写真だった。これがどうして離婚する理由になるのか、亜美は不思議に思ったが、詩織はそれを予想していたようでもう1通、メッセージを送ってきていた。
『俊介さん達は用心深くていつも時間差でホテルに出入りするのよ。でも2人が関係あるのは間違いない。詳しく知りたかったら、会いましょう』
詩織は、どうやら大金かけて元親友の夫の浮気調査をさせたようだ――もっとも彼女にとって興信所の調査費用ぐらいは大金でもなんでもない――亜美は詩織の無神経さに怒りを覚えたが、真実を知りたいという気持ちが勝った。
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