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「——で、妾にどうしろと言うのです?」
龍が巻き付く柱に囲まれた玉座で、女は気だるげな目で自らの爪先を眺めていた。ささくれひとつない爪を覆う指甲套は黄金に輝き、純度の高い紅玉石がはめ込まれた一級品だ。細部の造形にもこだわり抜いたそれは、庶民なら数ヶ月は食うに困らない価値がある。
(あいも変わらず、派手な女だ)
女というにはまだ年若く、まるで花のように可憐な容貌だが、その痩身を飾る真珠が連なる金簪、蒼玉が揺れる耳飾り、鱗すら緻密に刻み込まれた龍の腕環——金襴緞子の衣裳に至るまで全てが高価な代物ばかり。豪奢すぎる代物は、女の年齢と容貌に釣り合わないため、毳々しく見える。
(お前が贅沢しなければ国はもっと豊かになるのに)
翔雲は妻であり、叔母である女を内心では射殺さんばかりに睨みつけた。端正な顔に刷いた微笑みと、女が一寸たりとも視線をこちら向けないおかげで翔雲の煮えくり返る胸の内は誰にも伝わらない。
それをいいことに心のなかでは耳が腐り落ちるほどの暴言を吐き連ねる。血の繋がりもある伴侶でも女の行いは看過できないものばかり。
だが、翔雲には女を排斥する力はない。
「白盈様から今上帝に戲劇から離れられて、ご政務にお力を注がれますようお伝え願えませんでしょうか」
皇太子でありながら、床に膝をついた翔雲は女——白盈に向かって深く頭を下げた。床に額が擦れる直前まで下げると後頭部を誰かの視線が突き刺さる。
その直後、ふっと嘲笑う声が落ちてきた。
「父上が妾の言うことを聞くとでも?」
「我らが言うより、あなた様のお言葉ならあのお方もきっと聞き入れてくださいます」
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