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第二幕
「なんでこんなことになってるんだ!」
「うるさいわね!そもそもあなたが事の発端じゃない!あんな事業に手を出さなければよかったのよ!」
両親の罵声が響き合う中、気配を殺すようにしながら食事をする。
「―――美織、部屋に戻りなさい。」
「……はい。」
もう、日常に溶け込んでしまっている夫婦喧嘩。
まだご飯が残ってる、と言うことすら無意味だと知っている。
いずれ、二人が離婚するだろうということも。
今更何かを主張したところで無意味だということも。
今、かろうじて二人をつなぎとめているのが、自分だということも。
全部全部、知ってる。
廊下に出た時、窓の外の夜空が目に映った。
まだ、家族仲が良好だったころに軽井沢で見た、満天の星が輝いていた夜空と同じものだとは思えない。
でも、当たり前だ。
日本の首都、東京の空は、排気ガスで淀み、濁りきっている。
まるで今の我が家みたいだな、と自嘲する。
夕食も大して食べられなかった。
時間がなかったのもあるが、何より食欲がなかった。
部屋に入ると、机の上に目を移す。
現実逃避だと言われても、もう、私にはこれしかない―――。
救いを求めて、いつものように勉強道具に手を伸ばした。
まだ、夜は長かった。
私にとって、夜は、あまりにも永すぎる時間だった。
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