はじめましての貴方に、ただいまを言いたくて。

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「ところでママ、今日は何年の何月何日?」 「えっと、今日は令和6年の3月10日だけど」  早速日付を確認し、指定通りに遡れたことに安堵する。兄はこの日付にした理由を知らないが、私にとっては重要なのだ。 「二人はどうしてここに来たの?」 「ママの昔の写真を見せて欲しくて。宿題で家族の歴史をまとめる課題が出てるの。お願い」 「え、この時代に来た理由ってそれなの?というか今の学校ってそんな課題があるの?うそぉ……」  日付と関係なさそうな内容に不思議そうな顔をする母。その上昔の写真を要求され少し戸惑っていたが、時を超えて会いに来た我が子からの頼みを無下には出来ず、しぶしぶ棚からアルバムを出してくれた。 「そっちの時代にはアルバム無いの?」 「うん。もう少ししたらこの家引っ越しちゃうんだけど、パパったら慌てて必要な荷物まで処分しちゃって。その中にアルバムも入ってたみたいなの」 「そうなの?嫌だわあの人ったら。というかここは持ち家なのに引っ越すの?一体どういうことなの……」  父に呆れる母を見て、少しだけ申し訳ない気持ちになる。本当はこの家は火事で燃えてしまうのだ。だけど、それを阻止することはできない。  だから、今から話して不安にさせたくなかった。  アルバムの中の母は、純白のドレスを着て父と幸せそうに並んでいる。二人の笑顔を囲む祖父母の涙ぐむ顔もまた、感慨深いものがあった。  別のアルバムには、大きくなったお腹を擦りながら椅子に座っている母もいた。兄が生まれる直前のようだ。 「素敵な写真だなぁ。あ、こっちのママもかわいい!パパ若い!」  一人でページを捲りながらはしゃぐ私の顔を、母がじっと見つめる。 「どうしたの?ママ」 「ふふ。未来の娘に会えるなんて、私は幸せ者だなと思って」 「……」 「早くあなたに会いたいな。生まれてくるの、楽しみにしてるね」  母のその言葉に、心がじんわりと熱くなった。  そんな私達のことを、兄は真顔で見ながら正座している。どうやら、余計な事を話さないよう緊張しているようだ。 「あっちゃ……敦は、どうしてそんなにムキムキになったの?」  母が問いかけると、兄は意外過ぎるイケメン発言をした。 「大切な人を守るために修行しましたッ!」 「そ、そうなんだ。彼女とかいるの?」 「今はまだ募集中ですッ!」  そのやり取りに、私はプッと吹き出しそうになった。
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