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「ねえあなた、諏訪なんていう医師がいたかしら?」
妻が聞くと、夫は首を横に振った。
「いや、いなかった。君もナースだったんだ、分かるだろう?」
「じゃあ、今の話しは全部嘘?」
ミヨ子が怯えた目で母を見上げる。
「そうよ。パパが院長先生だった頃、自殺なんてした患者さんはいなかったわ」
ミヨ子の髪を撫でてやりながら、夫に決断を迫るように聞いた。
「あなた、どうしますか?」
夫は真っ黒な口髭を静かに撫でている。
「そうだな……、気の毒だが、このまま帰すわけにはいかないだろう」
屋根裏の暗闇が、波打つようにうねった。
「何しろ、あの女性には君の姿を見られている」
「だから、私じゃありませんってば!」
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